発明から技術革新へ

米国エネルギー省

発明・技術革新計画

米国エネルギー省

エネルギー効率・再生可能エネルギー部作成


目次

序論

謝辞

第1部

あなた自身、あなたの技術、そして技術革新プロセス

技術革新プロセス

事業化戦略

資本の出所:お金はどこから来るか

第1部のまとめ

第2部

あなたの現在の状況を評価する:第1歩

リズミカルなステップ:試作品開発と製作プロセス

市場分析:確かに動く…だからといって売れるのか?

経営開発:技術革新プロセスの戦略と構造

プランニングという仕事に立ち向かう

ライセンスのプランニングかベンチャーのプランニングか

第2部のまとめ

結論

付録1

事業化に関する用語集

付録2

有益な参考文献の一覧

付録3

法的側面の考察

付録4

事業化計画書

付録5

事業計画書


序論

 発明・技術革新計画は、アメリカ合衆国連邦議会により、1974年に策定されました。この計画は、以前ERIP(エネルギー関連発明計画)として知られていたプロジェクトに基づくものです。ERIPは、それまでの長い間、新しい省エネ技術を開発する個人発明家や中小企業を特別に支援する政府の計画としては唯一のものでした。

 発明・技術革新計画のための資金は、競合提案書プロセスに基づき調達されます。毎暦年に一度、通例春に提案書提出依頼が出されます。依頼書中で公表した評価基準に照らし合わせて判定するという成績評価システムにより、受理できる全ての提案書の中から、いくつかが選抜され採用されます。その上、この計画の運営委員達は、企業の財務委員会メンバー、非正規の投資家(即ち、エンジェル)、およびベンチャーキャピタリスト達と共有する、重要な期待があります。発明・技術革新計画は、エネルギー省の任務をサポートするエネルギー関連の技術革新を促進するために実施されるものです。それは、事業化の可能性の高い技術をサポートするということです。計画への助成金により、いかなる財政的援助を決断する際も、事業化に成功する見込みがどの程度か、ということが大切な要因なのです。

 明らかに、発明・技術革新計画の主眼はエネルギー生成と節約に置かれています。合衆国における主要なエネルギーの顧客である産業にターゲットを絞っています。事業を請願し、評価し、これに資金を提供するプロセスが簡略化されることにより、発明家は、製品開発の資金を、それが何の為に提供されるのか明白に知った上で、速やかに受けることができるのです。

 発明・技術革新計画の全貌、最新請願声明、ニュース、有益情報については、

http://www. oit.doe.gov/inventionsにてご覧下さい。

謝辞

 この度、本パンフレットの題材を再検討し、改訂・更新することにご尽力いただいた、多くの個人および機関の皆様に感謝の意を捧げます。特に、発明・技術革新計画およびその前のエネルギー関連発明計画に長年にわたってご参加いただいた、発明家、科学技術者、アントレプレナーの皆様に深くお礼を申し上げます。本書の内容とあらゆる見識は、これら諸氏の、技術革新プロセスにおける率直かつ忌憚のない成功談および失敗談に基づくものです。諸氏の様々な経験が、他の皆様の指針となり、新規技術のアイディアや製品、サービスのアイディアの宝庫になることを願います。執筆者は、諸氏のご教示に改めてお礼を申し上げます。

 本書の題材のオリジナル作成にHarold Livesay氏が果たした役割も、特別の評価に値します。氏のビジネスとその歴史についての知識は、優れた文体と機知とともに、その業績に克明に刻まれました。発明家、アントレプレナー、および中小企業経営者が真に理解すべきことは何かということについて、氏が掲げたヴィジョンは、なぜ発明・技術革新計画のもと、本書が初版発行より10年以上にもわたり、支持され続けているかをよく物語っています。この10年の間に様々な変化がありましたが、Livesay氏が提示した(そして今も提示し続ける)基本的見解は、今なお真実の響きを持っています。

 発明・技術革新計画のスタッフは、米国エネルギー省がエネルギー関連の発明に対して行う財政的援助の運営管理、および同省の助成金以上の援助を行なうため尽力していることに関し、評価と感謝を受けるに値します。本書が伝えようとしている情報と激励は、発明・技術革新計画が、その任務として行う情報の浸透と発明活動の支援の一端です。同計画は、20年以上にもわたって、才能ある発明家やアントレプレナーの持っている技術や製品のアイディアを商品として市場に送り出す手助けを行ってきました。

 本書の題材の改訂・更新は、執筆者の大きな喜びで        あると共に、強い責任を感じる任務でした。主なトピック類に改訂が加えられています。お気付きの点があれば、読者のご指導とご叱責をいただければ幸いです。最後に、読者諸賢の、本書を活用しての絶え間ない技術革新計画に心から感謝の意を表します。皆様の技術革新への努力は、必ず実り、数々の新しい製品・方法・サービスが国の市場にもたらされるにちがいありません。

David Lux and Marcia Rorke

Mohawk Research Corporation


第1部

あなた自身、あなたの技術、そして技術移転プロセス

 あなたは、市場に出して利益を得たいと思う技術や、製品アイデアに満ちたビジネスマンかもしれません。しかし、あなたの計画が実現するまでには、長く苦しい試行錯誤の道が続いています。アイディアとしては良いかもしれなくとも、商品化の価値がないとして破棄しなければならないものも多いでしょう。しかし、確かに生き残る新製品もあるのです。毎年、数多くの新製品が市場に出回り、アメリカ経済の活力を支え、その担い手を富裕にします――少なくとも、富裕にする場合があります。本書は、技術を持つ人が、それにより成功し利益を得る可能性を高める手助けをするために書かれました。

 あなたのアイディアを、市場で生き残れるものとするための第1のステップは、あなたと市場との間に存在する障害物について知ることです。そして、次のステップは、その障害物を無事乗り越える、つまり荒波を制して航行するための戦略について学ぶことです。更に最後のステップとして、いままで学んだことに基づき計画を立て、それを実行に移さなければなりません。第1および第2ステップにおいて、技術の製品化の前に横たわる主な障壁は、明確な定義で分類することができるということを、まず知っていただきたいのです。どのような障壁も、構成要素に分解し、それらを解決すべき課題として順序だてることにより、乗り越えることができるのです。このようなプロセスをマスターすることで、最終ステップ、すなわち、系統的でプロフェッショナルの力量を発揮したプランニング、および実行、へ進む基盤が強固なものとなります。

 単に役立つものを開発するだけで、発明が事業化に結びつくわけではありません。技術開発を行うだけでなく、同時に、目指す市場と市場への製品流通経路の両方に対し、適度に時代にあった厳しい評価を行い、それに自分の技術開発を合わせていかなくてはなりません。また一方では、適切な経営構造を構築し、それを単なる技術的開発段階以上のものに進化させる必要があります。経営構造は、最低限でも、市場調査の必要性と資本需要を満たし、政府機関への義務(例えば、納税する、環境基準を満たす、特許請求の裏付けとなる記録を管理するなど)を果たすものでなければなりません。更に、経営構造は、技術へのあなたの(および他人の)投資を保護するものでなければならないのです。

 このように、新規技術の技術開発、市場開発、経営開発の3つがバランス良く結びくことで、「技術革新プロセス」が成立します。この技術革新プロセスを理解しないでは、効率的なプランニングを行うことができません。そして、プランニングを行わずして、アイディアを事業化することはまず不可能です。技術革新プロセスのためにプランニングが必要である、というのには様々な理由がありますが、とりわけ、説得力に満ちた計画なくしては、人と資本を引きつけることができないということが言えます。

 製品の市場化には、正式な事業計画書(ビジネスプラン)が必ずと言ってよいほど必要です。市場進出のずっと前から、プランニングとマーケティングに着手し、自分なりの技術的、マーケティング的、経営的戦略を文書化しなければなりません。このプロセスを早くマスターするほど、良い結果に結びつきます。そして、進行中のプランニングに携わることにより、ビジネス活動を組織し、技術データ、市場データ、経営データを統合することに慣れていきます。このような方法を行わなければ、せっかくの技術的眼識も、魅力的な投資の機会に恵まれることなく資産を使い果たしてしまうということになりかねません。優れた技術さえあれば成功すると考えるのは、大きな間違いです。一方で、技術革新プロセスに基づき系統的プランニングを行ったからといって、必ずしも成功するというものでもありませんが、成功の可能性は、はるかに高くなります。系統的プランニングは、あなたが直面するプロセスについて学ぶことから始まります。

技術革新プロセス

 技術革新プロセス一覧表(次ページ参照)は、技術革新プロセスにおける技術的、市場的、経営的ステップの関係を大まかに示したものです。プロセスが進行するにつれて必要となるスキルや関係してくる人材についても述べています。現実の複雑な人間の活動を、線的、ニ次元的平面上で示そうとしたものの常であるように、この表も、現実を完全に表したものではありません。思いきって簡略化し(実際にはもっと様々なスキルとスタッフを要します)、また省略したために、不備の多い表かもしれません。(「経営管理段階」の部分は、もしその前の二つの段階と同じ尺度で述べようと思うなら、6フィートもの長さの紙が必要でしょう。)しかし、この表には、個人事業者や中小企業経営者が新規製品を商品化するための、実際的で極めて需要なポイントが盛り込まれています。とりわけ、各コラムを追っていけば、技術開発を進めながら、同時に、市場と経営面では何を行うべきかについて、正確に知ることができます。


表1: 技術革新プロセス

技術革新段階: 製品定義から技術試作品へ

技術ステップ

市場ステップ

経営ステップ

必要なスキル

必要な人材

製品定義

予備的市場の定義

開発の決定

知的所有権戦略の定義

技術的直感

発明家

実動模型

市場分析

定義:

購買要因

3つの差異点

資金調達

特許申請

事業化計画書の完成

技術から工学へ

発明家

地元の技術者

友人の中の投資家

技術試作品

テスト 改良

市場障壁の特定化

さらに多額の資金調達

知的所有権の確定:

特許/営業秘密/

商標権/著作権

ライセンスかベンチャーかの決定 

事業スタート/

ライセンス計画

工学

法律

市場分析

資本獲得

発明家

技師

特許弁理士

さらに多くの発明家

市場分析

経営プランナー

起業段階: 試作品から生産へ

技術ステップ

市場ステップ

経営ステップ

必要なスキル

必要な人材

製作試作品

スケールアップ

 テスト

 改良

 生産工学

 製品安全工学

本格的市場分析および計画

すきま市場

 障壁

 価格決定

 競合

 コストデータ

 流通方法

 代替案

 リスク分析

 販売予測

セールス部門の雇用

/研修

保証/為替確立

顧客手配

資金調達 

多額の資金調達

事業計画書の完成

事業の形成

州および連邦政府の規制に適合

保険の手配

生産施設の見積もり

工学

 生産

 生産安全性

起業

 資金調達

 マーケティング

 コスト分析

法律

経営管理

発明家(?)

アントレプレナー

投資家

技師

 生産技師

 安全技師

弁護士

 特許弁理士

 企業弁護士

会計士

 コンサルタント

 マーケティング・コンサルタント

ビジネスコンサルタント

 経営コンサルタント

 財務コンサルタント

保険代理人

労働組合幹部

限定生産

認定試験

 ランニング・チェンジ

顧客へのコンタクト

流通開始

製品探求

裏書き

フォローアップ販売

宣伝広告

技術ジャーナルに発表

さらにより多額の資金調達

経営開始

工場建設

設備購入

生産労働者の雇用/研修

手配

 製品サービス

 仕入れ

 輸送

 記録管理

上記全て

  ‐プラス

特殊工学

システム工学

販売分析

監督

上記全て

 ‐プラス

現場主任

労働者

販売員

特殊技師

システムエンジニア

フル生産

 開始

上記すべて

プラス

流通拡大

競争企業の分析

反応

上記すべて

プラス

コストの監視

キャッシュフロー欠損額を埋める

生産システムの改良

上記すべて

  ‐プラス

権限委譲

市場予測

戦略的プランニング

長期財務計画

上記全て

  ‐プラス

拡大

 経営陣

 営業マン

 労働力

第一次成長

ますます複雑化

ますます複雑化

ベンチャーキャピタリスト(?)

経営段階:生産から主要市場進出へ

技術ステップ

市場ステップ

経営ステップ

必要なスキル

必要な人材

製品改良

新規製品

持続的成長

なお一層の複雑化

複雑な経営

アントレプレナー(?)

高度に組織化された経営陣

R&D担当者

ベンチャー・キャピタリスト



 つまり、各コラムのそれぞれのステップは、平行して見ていくように書かれています。この方法により、厳しい現実を認識することになります。すなわち、市場が存在して初めて本格的な技術開発をする意味があるということ、そして効果的な市場分析と技術開発を行うには、絶対に、適切な経営構造の構築に努めなければならないといことです。これらの要因の中でも、市場を最重要視するということ、そして、技術開発を続けるために援助を求めるようになるにつれて、自分の市場を明確に定め、その決定を、主張ではなく証拠で裏付けることができるようにならなければならないという事実を忘れないでください。

 実際、新規技術を開発しようとすると、大抵のイノベーターは、発明自体のことで頭が一杯になります。「これは動くのか?果たして、本当に動くものになるのか?もし動くのなら、現在ある他のモデルと同じ程度に役にたつのか?それとも、もっと優れているだろうか?」実際、どのような新規技術についても言えることですが、最も肝心の問いは「動くのか?」ではなく「私が考えた通りに動くなら、誰か買い手がいるだろうか?」なのです。そしてこれに対する答えが「十分な利益になるくらいの価格で、沢山の人々が買ってくれるだろう。」でない限り、動くかどうかは問題ではありません。技術開発に多大な時間とお金をかけても意味はありません。多くの発明家が、この決定的なポイントを忘れています。すなわち、「使えなければ誰も買ってくれない。」という自明の真理から出発するため、「では、使えるなら、誰もが欲しがるはずだ。」という、おめでたい誤った結論に到達するのです。

 このような「より優れたネズミ捕り」理論にかかってはなりません。近所の金物屋で、「もっと良いネズミ捕り器を下さい」と言って、ネズミ捕り器の実物でも見せてもらい、じっくり考えるといいでしょう。技術が商品化されるには、まず作動しなければならないのは当然です。その上に、確かに作動するという証拠を、どこかの独立した、政府認可の機関に文書にまとめてもらい(お金がかかります)、人々にあなたの技術が使い物になると納得させる必要があるでしょう。しかし、そこまでたどり着くには、止むことのない「誰がこれを買うのか?」という問いに対し、疑問の余地のない入念な回答が得られなくてはなりません。

 あなたが現在どのような状況にいようとも、今から先はずっと、いかにして誰にあなたの技術を売るかという問題は、あなたが行うあらゆる決断、あなたが講じるあらゆる手段、ライセンスするかベンチャーにするか に影響を与えるでしょう。結局は、技術開発より、技術を売るという仕事の方が、多くの時間、エネルギー、資金を必要とするのです。必要な資本を獲得するために、あなたが交流しなければならない人々が、だんだんと、あなたの発明だけでなく、あなた自身に関心をもつようになるでしょう。あなたの発明は、技術的スキルを証明しているかもしれませんが、広範囲の支援を受けるには、あなた自身、あなたの仕事仲間、あるいはあなたのライセンシーが、経営スキルを証明するこのとも必要になってきます。

 技術革新プロセスの各要因間のこのような相互関係が理解できたら、技術開発を超えて、事業化戦略などにわたる広い視野を持たなければならない、ということに気付くでしょう。

事業化戦略

 市場に出るには、誰かがあなたの技術を生産化し、販売しなければなりません。実際、発明が市場に近づくにつれて、経営スキルの方が技術スキルより重要になってきます。経営スキルを持つ人々の時間を借りる必要が大きくなり、それに応じて、ますますお金もかかるようになります。しかし、このような限られた資金を求めて競合している発明は沢山あるのですから、技術革新プロセスを完全に理解している人々、または少なくとも技術革新プロセスの経営面のことを把握している人々に、あなたの技術を強く印象付けられるような計画を提示する必要があります。あなたが技術革新プロセスを理解しており、発明をできるだけ早く事業化する決意であるということを示すことで、このような人々から支援を受けられる見込みが遥かに高くなります。技術的的確さのみならず、全体的事業の見通しに重きをおいた計画書を作成しなくてはなりません。例えば、自分自身および他人のお金を投資する、ベンチャーキャピタリストが処世訓としているのが、「製品は二流でも経営者が一流の会社と、一流の製品を二流の経営者が取りしきる会社では、絶対に前者に投資すべし。」ということです。一流の経営者とは、つまり一流のプランナーです。あなたが、イノベーターとしてはまだ経験が浅くとも、明確かつ断固とした目標――即ち、市場に進出するということ――を掲げてプランニングを行うことにより、習得のプロセスをスタートすることができるのです。

 基本的に、技術の事業化には2通りの方法があります。誰か他者に技術をライセンスして、その製品化および/または販売を任せる方法と、それを自分で行うことです。これ以外の方法もこの2つのバリエーションです。いずれにせよ、あなた自身が常に慎重に考えなければならないのです。

ライセンスするという選択

 多くの発明家が、ライセンシングにひきつけられます。自ら事業を展開するするよりもライセンスする方が、仕事の手間も省け、必要なスキルも人材も、そして資金もかなり少なくて済むように思えるからです。しかし、そのような期待で選択することは誤りです。第一に、ライセンシーがみつからない場合もあるのです。本当に、1社もライセンシーになってくれないという可能性は十分にあります。第二に、ライセンシーがみつかったにしても、ライセンシングにはプラス面とマイナス面があるのです。そのいくつかをご紹介します。

マイナス面

自分の技術の支配権を失います。

大抵は、完全な支配権を、長期にわたって、あるいは、しばしば永久にです。

自分の技術との関わりが絶たれます。

大抵は、ライセンスした時点から、一切の直接的関わりが許されなくなります。ライセンシーのコンサルタントとして、周辺から関わることはできても、まず、限られた時間内においてのみです。

適切なライセンシーを見つけることは困難です

良きライセンシーは、富をもたらし、悪しきライセンシーは、あなたの技術を埋もれさせ、あるいは台無しにする恐れすらあります。後で技術を取り戻すことができたにしても、すでに取り返しのつかない事態になっています。

・最も重要なことは、あなた自身の利益を保護することです。

しかし、これもまた、大変難しいことなのです。ライセンシーとの交渉は、手ごわい相手とのゲームであると言えます。相手は、顧問弁護士、市場アナリスト、生産エンジニアなどの膨大な専門スタッフで臨んできます。(個人発明家や中小企業経営者には、一人で太刀打ちできる相手ではないでしょう。)ライセンス契約は、適切に行われるなら、2当事者間の厳しい交渉の結果成立するものです。相手が、自分たちを代表するプロフェッショナルをそろえているなら、あなたもあなたなりの用意が必要です。あなたがこのゲームのアマチュアなら(大抵はそうでしょう)、このような交渉に経験豊かなプロフェッショナルの助けを要請する必要があります。

プラス面 

ライセンスにより、あなたの発明を開発する資源が何倍にも膨らみます。ライセンシーは、――他にライセンスするなど考えられないほどのダイナミックな企業であれば――直ちに、専門スタッフのチームを組み、あなたの技術の開発、製造、さらにマーケティングをにとりかかってくれるでしょう。あなたにとって、とても克服できそうにない財政問題も、彼らにとっては小さな現金の塊にすきないでしょう。

ライセンシーには、あなたに見えないものが見えます。ライセンシーは、しばしば、あなたに見えない発明の有用性を見ぬき、そしてそれゆえマーケティングもしてくれます。あるライセンシーは、海水利用菓子製造機を新型高性能コンクリートミキサーに変えました。市場が広がるほど、また収益率の見込みも高くなります。

現金がすぐに手に入る可能性があります。ライセンシーは、あなたの望むだけとまではいかないにしても、幾らかのお金を前払いしてくれることがあります。その上、しばらくの間、最低限のロイヤルティを支払うことを約束してくれる場合もあります。

ライセンシングはあなたを解放してくれます。もしあなたが、退くこと、あるいは新規製品の開発に戻ることを望むなら、今の技術の支配権を手放すことがあなたにとってのメリットとなるでしょう。

 あなたの技術が、あきらかに市場化できる可能性が高いものであれば、その市場の有力企業があなたの発明を欲しがるでしょう。大企業は、常にそのように新規製品を獲得するものです。しかし、中小企業も、知名度は低いかも知れませんが、可能性を提供してくれるということを覚えておいてください。中小企業の多くは、お金をかけたR&D計画を実行する余裕はありませんが、それでも、新規製品を必要としています。それに、中小企業は、しばしば、大企業よりはるかにダイナミックな経営を行っているという事実があります。中小企業を、潜在ライセンシーの対象外としてはなりません。

 ただし、あなたは、ライセンシングを実行する前に、次の質問すべてにイエスと答えられなければなりません。

.特許権、著作権などの法的保護手段を持っていますか?

もしノーなら、ライセンシングは進まないでしょう。いかなる企業も、保護されていない発明に投資するリスクを背負いたくはないのです。あなたにお金を払って、あなたの所有でないものを得ようとする企業などありません。

.実動模型か、あるいは、もっと良い技術試作品を作っていますか?

ノーであれば、当該発明が競合力のある効率性をもって動くということを証明することができません。(試作品を作らなくとも、動くことが明白ということもあるかもしれませんが、それは、稀なことです。)あなた自身が、当該発明の実行可能性を示さないということは、ライセンシーが自らの資金でそれを行わなければならないということであり、あなたにとっては不利な交渉条件なのです。実際、ライセンシングの成功は確かな技術開発があればこそ、可能になるものです。ライセンシー側に、技術もまたそれに対する責任も、ありはしないのです。

.売り値が需要量に与えると予想されるインパクトを含め、市場規模についての信頼性あるデータを持っていますか?

.様々なレベルの生産高で製造を行うと、どのくらいのコストがかかるか知っていますか?

ことによると、あなたは、ライセンスを行えば3と4の問題は避けられると思っていたのではないでしょうか。逆に、3と4について的確な答えを出せないということは、自分の発明がライセンシーに対して幾らの価値があるのか分らないということです。ということは、ライセンシーに幾らの支払いを要求できるか分かりません。ライセンシーは、これらの数字をいろいろと提示してきます。あなたが騙されることはないにしても、ライセンシーの見積もりは、売上と利益は低めであり、コストは高めになるものです。

 要するに、あなたは、技術的可能性は勿論、製造とマーケティングについてのあなたの知識も文書化して証明しなければなりません。プランニングを行うことで、まず、自分がやりたいのはベンチャーなのか、それともライセンスなのかを決定することができます。そして、あなた自身のビジネスに資金を調達するたのデータ、あるいは見込みライセンシーに、あなたがその資金を諦めることを納得させるためのデータを収集することが、その決定を実行に移すことを容易にします。

 発明をライセンスすることを決めたら、少なくとも、「実動模型」を使いながら技術革新一覧表の各項目を実行しなければなりません。「技術試作品」段階に到達するころには、ライセンシーを発見する可能性も大きく高まり、またそのライセンシーに支払うよう説得できる金額も明確になっているでしょう。これに対し、ライセンスを行わず自分で製品化する、あるいは現在の自分の事業の枠内で製品化するつもりであれば、「起業段階」のすべてのステップを自分で実行しなければなりません。

自ら事業化するという選択:ベンチャー戦略

自ら事業を立ち上げる、即ち、いわゆるベンチャーを行うには、あなた自身がより多くの仕事をしなければなりませんが、それなりにメリットとデメリットがあります。

デメリット

リスクが大きい。新規事業の多くは失敗します。新規製品対象の新規事業は、リスクも2倍となります。なぜなら、新規事業が失敗する事例の見本が存在し、多くの発明家の持つ弱点を並べて見せているようなものだからです。この弱点とは次のようなものです。(他にも沢山あります。)

経営スキルの欠如

市場の過大評価

まずいプランニング

責任を委任できないこと

・不充分な資金調達

資産は限られています。自分で調達できるだけの資金は、できるだけ準備するでしょうが、大量生産とマーケティングを開始するために必要な資金の調達には、通例、専門家の力が要ります。あなた自身が専門家でないなら、誰かを探してこなければなりません。

                

あれこれ手を広げ過ぎてしまいます。必要な仕事やスキルがどんどん増えるにつれて、――実際大変な勢いで増えるものです――それら全てを自分でこなすための時間、あるいはそれらをやってくれる他の人を探す時間に追われるようになります。

すぐには収入には結びつかないかもしれません。ビジネスの構築はお金を食い尽くしますが、それでも、自分で調達しなければなりません。あなたが会社を見つけ、それに十分な投資をすることができれば、自分への給料を支払うことができるかもしれません。しかしそれはささやかな金額でしょう。あなたへの資金提供者達は、彼らのお金は節約してほしいと思うものです。

メリット

・会社経営の楽しさを味わえます。あなたにその気とスキルさえあれば、事業は、単に発明するだけでは経験できない楽しみをもたらすでしょう。発明家の中には、経験により起業家になる人もいれば、また、本能的にそうなれる人もいます。ポラロイドのエドウィン・ランドやマイクロソフトのビル・ゲイツが証明しているように、発明家と起業家の両面の才能に恵まれた人は、大きな成功を収めます。しかし、このような例は稀です。

・長い目で見れば、大きな収入をもたらします。あなたの発明が大発明であれば、それによる報酬は、ライセンス契約により入るロイヤルティを遥かに上回るでしょう。

・あなたの会社でも、あなた自身が経営する必要はないのです。技術革新一覧表が示す通り、会社を成功させる要因の一つは、いろいろな人々を上手く使うことです。社長すら、雇ってもいいのです。強大な企業支配力を持ちながら、実際の経営は他人に任せている、という発明家の例は沢山あります。

 自分で事業を営むということには、明らかに様々な意味があります。ひとつの会社で、設計、製造、および営業のすべての面を一手に行うというのもいいでしょう。しかし、よくあるのは、どれか1つの面に絞り、他のことは他の会社に任せる、という方法です。実際、あのゼネラルモーターズでさえ、部品の多くを独立した業者から購入し、小売はフランチャイズ契約のディーラーに任せています。

 発明の発起人として、あなたはすでに、明示的に事業を始めたと言えます。法的な意味で会社を起こしていなくても、自分の発明で経済的成功を収めると決意した日が、国税局から見れば、あなたの事業開始日なのです。あなた自身にとっては、どんなにささやかなで簡略な事業だと思えてもです。ですから、事業案という観点から、投資した時間とお金がこれほどになるとは思ったことが今までなかったのなら、今始めるべきです。あなたが、事業を小規模なものにするか、拡大させるかに関わらずです。あなたが、有限責任を持つような枠組み(即ち、事業においてあなたが受ける可能性のある損失から、法律的にあなたの資産を隔離する構造)をまだ構築していないのであれば、すぐ弁護士に相談するべきです。あなたがどうであれ、見込み投資家は、この問題に関心をもっています。

 自分の技術に基づいて事業を展開する場合、経験から、会社は成長しなければならないということが分ります。大企業を築かなくとも、発明を市場化することは可能ではありますが。例えばあなたが、1個販売するごとに多大な利益を生じる専門的な工具を発明したら、1個を売り、その収益により更に2個作り、それらを売って更に4個…というやり方で、ビジネスを拡大することができるでしょう。これは稀なケースではありますが、結局は、小規模のままでやっていくのか(どこかの大企業が、あなたの会社の成功を見て、競合製品を持って市場に進入してくる危険性がありますが)、それとも事業を拡大するのかを決定しなければならないのです。

 成長する事業を営んでいると、いずれ外部からの資本が必要になってきます。これは、つまり有限責任を投資家に提供する、正式な経営構造――仕事を機能的に分割し(製造、マーケティング等々)それぞれを担当するために雇った専門家に任せる――を構築する必要が出てくるということです。この2つの事は絡み合っています。何故なら、良識ある投資家であれば、少なくとも、このような正式な経営構築計画を立てていない経営者に(会社の規模はそこそこであっても)お金を出そうとはしないからです。投資家は、発明家というものはだいたい、何でも自分一人でやりたがるということを知っています(あなたは、そのようなことはないと言うかもしれませんが)そして、彼らはまた、会社経営を成功させるためには、絶対に真の権限譲渡を行う必要があるということも知っています。多くの発明家にとって、権限譲渡ほど難しいこともないでしょうが、事業を成長させるには、「自分が会社を完全に支配したいなら、多くの特定の権限を他人に委任すべし。」という皮肉な命題を受け入れなければなりません。

 会社経営を成功させるには、ダイナミックなプロセスに着手し、これに習熟し、支配するとともに、事業の成長、当該産業における新規技術、税法改正、競合企業の挙動などにより引き起こされる絶え間ない変化に対処していかなければなりません。事業が成功してダイナミックに成長を続けられるかどうかは、継続的プランニングという基盤にかかっています。そして、継続的プランニングは、絶え間なく変化する環境、目標、およびに体制に対応して常に更新しなければなりません。計画は、軌道から外れないための手助けになると同時に、あなた自身とあなたの事業を、見込み投資家、顧客、供給業者、さらにリクルートしたい人材に対して大切なツールとなります。この、人材確保について、プランニングはとりわけ大きな意味を持ちます。なぜなら、会社の飛躍のためには当然一流の人材の力が要る訳ですが、そのような人々は、自分がどんなことに関わることになるのか、とりわけ将来への展望という観点から、把握したがるからです。

ライセンシングとベンチャリングに共通する前提条件

 事業化戦略としてのライセンシングとベンチャリングは、明らかに全く異なっていますが、ある前提条件など、共通点も多くあります。誰かにあなたの発明を生産し供給する権利を買ってもらうよう説得するにしても、あるいは、自分の発明は自分で生産・供給するにしても、あなたが行わなければならないことは、いくつかあるのです。いずれの道を選ぶにせよ、誰かがお金を、それも莫大な資金を出さなければなりません。それまでの出費がどれぐらいであろうと、これから必要な額に比べれば少ないと言えます。ですから、ライセンシングにせよベンチャリングにせよ、説得力のある総合的政策を立てる必要があります。具体的には次のような事です。

発明が使えるということを証明する。実動模型、あるいはできれば技術試作品を用いて証明します。投資家即ち見込みライセンシーに対し、彼らの目で見ることができ、手で触れられ、かつ、ちゃんと腕前を見せるのを観察できる実物を示すことほど、有効な説得方法はありません。少なくとも、実動模型1つなくして、家族や友人など、あなたを個人的に信頼してくれている人以外の人々に興味を持ってもらうチャンスはあまりありません。あなたを全く知らない人(友人の中で経験豊かな投資家である人を含む)は、次のようなことを求めてきます。

・市場調査 どのような潜在購買層があるか、その数はどれくらいか、彼らはいくら払うか、競合製品があるか、それをどのようにして打ち負かすか、さらに、あなたの製品のような品物は、どのような流通経路で市場に出るかなどについて、本格的に分析することです。

あなたの製品と、競合製品との比較においては、3つの決定的相違点を示すことができなければ、問題が生じます。あなたの発明には重大な欠陥があってはなりません。例えば、ある発明家は、ある製造業者が実験段階のガラス製品を大量生産品に変える技術をあてにした装置を持っていました。その製造業者がガラス製品を製造するのを止めたとたん、発明家は当該発明を事実上葬ってしまったのです。

なによりもまず、あなたの製品が売れると予想される根拠を示すことができなければなりません。そして、そのことは、信憑性のある具体的な数字に裏打ちされた、見込み購買層からの言質を取って示さなければなりません。投資家の市場についての質問攻めをかわす最も確実な方法は、「市場に出れば、皆飛びつくでしょう。」と答えておくことです。(必ずしもそうとは言えませんが。)市場分析が、技術的な的確さに関わりなく、あなたの発明が進出する価値があるかどうかを決定します。さらに、その分析が、次の段階へ進むための基盤となります。それは、

計画書の作成 どのような計画を立てるべきかは、どのような事業化戦略を選択するかによります。あなたがライセンスを行いたいのなら、事業化プランニングにより、必要な情報が導き出されるでしょう。付録4のアウトラインに基づいて始めると良いでしょう。

あなたがベンチャーを行いたいのであれば、正式の事業計画を立てる必要があります(付録5)。これは、技術を開発し、マーケティングし、販売するために、あなたが何をするつもりか、それにはコストがいくらになるかなどについての詳細な分析です。そしてこれらの情報を5ヵ年計画で1年ごとに具体的な数字で示し、どの仕事は誰がするのかまで示します。投資家(身内や友人以外は別ですが)は、必ずこのような計画書を要求してきます。見込みライセンシーも、同様に要求するかもしれません。彼らに要求されなくとも、このような計画書は作成するべきなのです。これは、彼らが値段を叩こうという作戦にでてきたときの、武器となるからです。

どちらの事業化戦略を選択するかを決定するための、その他の要因

 ライセンスするにせよベンチャーするにせよ、ある程度の所有権および/または支配権を手放さなければならないという事実を、受け入れなければなりません。よって、ある意味では、撤退するかどうかではなく、そうする場合に、どの程度まで完全に手を引くか、どのような状況で、どのような方法でそうするか、といったことを決断するということです。言い換えれば、事業化戦略を探求することは、同時に撤退戦略を探すということなのです。

 また、ライセンスにしろベンチャーにしろ、経済界の人々との関わりが次第に多くなります。彼らは、あなたとは別の責務、別の期待を持ち、異なる言葉使いをする人達です。彼らの多くは、技術を金のなる木としか見なしていません。好むと好まざるとに関わらず、あなたはこのような人々が必要になるのですから、彼らの物の見方を学ばなければなりません。彼らは、自分達の言葉使いを、あなたに分るように解釈してくれたりはしないのです。この財界の現実を理解することが、アントレプレナーに必要なスキルであると言えます。あなたが認識すべき役割であり、しかも誰かが――あなたなり、パートナーなり、ライセンシーなりが――実際に果たすべき役割なのです。事業を構築するには、アントレプレナーとしてのスキルが必須です。すなわち、すべての構成要素を統合し、それらを、バランスをとりながら機能させ、成長を支える為のノウハウです。あなた自身がすでに会社を経営しているのであれば、何が必要かという生のアイディアがあるでしょう。まだ経営者でないのなら、多くの学ぶべきことがあります。アントレプレナーとなる素質があるかどうか、自分に問い、正直に答えることが必要です。

 仮にあなたが、自分はアントレプレナーには向いていない、あるいはそれになる気もないという結論に達したとします。しかし、それでも、発明を事業化する方法はあるのです。アントレプレナーを探して、あなたのスタッフに加えるのです。簡単にはみつからないでしょう。あなたとあなたの技術と運命を共にしてくれるようアントレプレナーを説得するため、徹底した準備をしてあなたの発明の可能性を証明しなければなりません。それに、アントレプレナーは確かに高くつきます。彼らは、利益の分け前が欲しいのです。おそらくかなりの分け前を。しかし、それだけの価値がある人々です。かつてチェスター・カールソンという発明家がいました。彼は自分の小切手帳の収支を合わせることすらできなかったほどで、会社を経営するなど、もっての他でした。しかし、ジョー・ウィルソンというアントレプレナーが、ゼロックスという名の会社を創設し、カールソンを大富豪にしてくれたのです。

 図書館に行けば、自分の素質を自己チェックできるようなテストのついた、「あなたにもできるビジネス」式のビジネス独習書がいろいろありますが、ここで、技術革新一覧表を見ながら次の質問に答えてみてください。あなたがアントレプレナーになりたいと思っているのか判定する手がかりになります。

.この中から、あなたが一番得意な仕事(項目)を4つ挙げてください。

2.一番苦手な(苦手だろうと予想される)仕事を4つ挙げてください。

3.一番楽しくできる(と予想される)仕事を4つ挙げてください。

4.一番面白くないと感じる(と予想される)仕事を4つ挙げてください。

 質問1の答えの少なくとも2つが技術以外のコラムのものであれば、あるいは、質問2の答えの半分以上が経営コラムか市場コラムのものであれば、あなたは、おそらくあまりアントレプレナー向きではないでしょう。

 質問3の答えの少なくとも2つが技術以外のコラムのものであれば、あるいは、質問4の答えの半分以上が経営コラムか市場コラムのものであれば、あなたは、おそらくあまりアントレプレナーになりたいという気持ちはないでしょう。(逆もまた同様です。)

 あなたの得意分野と好きな分野を明らかにするこれらの質問は、あなたがアントレプレナー向きか、あるいはライセンスしたいのか、それとも自分で事業化したいのかを探り出す、からくり以上の意味があります。これらの質問により、事業化の方法を探る、更なる次元での検討へ進みます――すなわち、費用という次元です。

万難を排して費用意識をもつこと

 ご存知のように、費用には3つあります。資本費用、時間費用、そして人的費用です。これら3つは互いに絡み合っており、ある程度まで交換可能です。例えば、試作モデル製作会社に依頼するお金がないとすれば、自分の時間という対価を払って自らモデルを製作し、お金を節約しようと考えでしょう。すると、今度はそれが、自分の健康、結婚、などという人的費用を払わせることにつながります。おまけに、まずいモデルを製作してしまうという事実が生じる恐れもあります。

 これらの費用を、それぞれの関係において正確に見積もるには、機会費用という原則を理解し当てはめて考えなければなりません。資本費用について言えば、例えば、あなたが見つけ得る最も確実な投資方法(米国政府発行有価証券など)以外のところにお金を預けることにより、失われる利益です。あなたが自分の発明に投資した場合も、まさにこれと同じことをしたことになります。また、投資家に頼んで投資してもらたった場合も同様です。間違いなく言えることですが、プロの投資家は、決して機会費用を見失うことはありません。あなたのハイリスク・ベンチャーに投資した代価を法外に要求してくるものです。

 しかし、機会費用は時間費用と人的費用についても当てはまります。ある事をしているときは、別の事はできません。あまり効率の上がらないことに多くの時間を費やしていると、お金よりも大切な何かを無駄にしているかもしれないのです。長い目で見れば、最も重要性の低いのは、資本費用です。なぜなら、資本が尽きれば、必ず倒産ですが、時間が尽きると死あるのみです。財務の倒産は極めてアメリカ的なもので、数多くの人々が倒産してもなお生き残り、のちにまた成功を収めています。しかし、時間や精神の倒産は、通例二度と回復することのない大きな不幸です。

 ですから、独力でのろのろ進むより、専門家のハンドルさばきに任せた方がいいのです。技術革新プロセス一覧表を見れば納得できるように、いずれは専門家の助けが必要になります。(特許弁理士をやとっているなら、すでに専門家の助けを確保しているということです)この表と、先ほどの4つの質問に対するあなたの答えをもう1度よく見ましょう。機会費用を3種類の費用間の相互作用を心に留めながら、もう1度自分に問うてみましょう。「私の発明を事業化する一番良い方法はなんだろう?そして、活動を開始するためにまず私が要請しなければならない助けは何だろう?」

 勿論、多くの発明家の返答は、「どんな戦略を選ぼうと、次にどんなステップへ進もうと、私自身がどんな役割を果たそうと、必要な助けは、お金だ。」ということでしょう。

資本の出所:お金はどこから来るか

 製品を完全なものとするために調達する資金の出所を探し、製造し、市場に出すという問題は、すべての発明家の関心事です。しかし、あいにく、ここで説明できることはあまりありません。後にわかってくることですが、手っ取り早い方法も、確実な解決法も、簡単にアクセスできる資金のたまり場も存在しないのです。

借入れ資本(つまり銀行から融資を受ける)

 一般的な公理としては、銀行は発明家に投資はしないと言われています。概ねそれは真実ですが、ときには驚くべき例外があるものです。そのうえ、オハイオ州立大学教授であった故アル・シャぺロがこの分野で実証的研究を行い、世間一般の通念と文献に反し、銀行は新しい企業に融資したがる傾向があるということをつきとめたのです。シャぺロは、銀行から借りるときに覚えておくべき鉄則をいくつか挙げています。第1に、ひとつの銀行内で一旦拒否されても諦めないこと。彼は、ある行員が却下しゴミ箱行きにした申請を、他の行員がOKとした例があったと言っています。第2に、1つの銀行で拒否されても、別のところに行ってみること。全ての銀行が同じ融資方針というわけではないのですから(とりわけ中小企業への対応に関しては)、様々な銀行をあたる必要があります。それに、小規模の銀行の方が、受容性が高いということも言えます。大銀行には、取引きが自分から寄って来るけれども、小銀行は、取引きを獲得するためにいろいろと苦心しなればならないのです。

 新しい銀行は、老舗の銀行と比較して、受容性が高いでしょう。4世紀前、マキアベリは、野心家達に対し、こう助言しました。「すでに多くの従者を従えた、身分の確立した人物の側に場所を求めるよりも、今追随者を必要としている新参者を高めることに心を入れよ。」これは政治について言えることですが、銀行についてもあてはまります。  

 明らかに、どこの銀行でも、自分の発明の技術的可能性ばかりまくしたてても意味がありません。最も鷹揚な銀行家でも、景気見通しを持っているのですから、あなたもビジネスライクな提案をしなければなりません。すなわち、もう1度よく下調べをし、「市場に出れば、買い手はつくでしょう。」などといった馬鹿げた発言は慎まなければなりません。そう簡単に売れるものではありません。一方、担当の銀行家が、あなたの事業案にどうしても融資できない場合は、彼の非公式なビジネスネットワークの中から、誰か交渉できそうなところを紹介してくれるかもしれません。

 また、借り入れによる資金調達源として、自分(および他人の)クレジットカードを用いるという方法もあります。この方法のメリットは、特別の計画書も許可も要らないということです(健全な掛貸限度額があることを除けば)。デメリットは、つい、限度額を越えてしまうということです。何事もコントロールがきかなくなることはよくあるもので、この方法は、大変高くつく恐れがあります。慎重に行動しましょう。

 

 潜在的供給業者・顧客も、あなたの成功からもうけようと構えています。あなたの行く手に現金を並べてはくれなくとも、業者は、信用を供与し、見込み顧客は、予約注文をするかもしれません。

政府からの資金

 連邦政府は、技術革新に対して多くの支援を行っています。(上院議員や地区の議員に問い合わせてください。)また、州政府や地方自治体を潜在的な資金援助源として忘れてはなりません。米国エネルギー省における発明技術革新プログラムや中小企業技術革新研究プログラム(SBIR)を参照してください。

 カリフォルニア州、コネチカット州、マサチューセッツ州、オハイオ州などには、ベンチャーキャピタル・ファンドがあります。あちこちに、いわゆるエンタープライズ・ゾーンが形成され、インキュベータが開設され、スタートアップ企業に様々な支援が行われています。このような機関のスタッフは、しばしば見込み投資家とコンタクトをとっています。

自己資本

アメリカ経済における技術革新のための持分資本調達に関して言えることは、この資金調達方法を理解するには、何枚かの層を剥がしていく――実際、タマネギの皮をむくような作業を要するということです。目に見える外側の層(皮)は、中小企業投資会社、投資銀行ネットワーク、株式市場などの、正式な投資資本企業からなっています。タマネギの中心には、発明家がいて、自らの時間、スキル、労働を捧げながら家族の収入に頼って発明の開発を支えています(技術における「労働対価資本」の形成)。そしてこのような両極端の間は、あいまいな中間層構造となっているのです。勿論、どのような一般的な事例にも例外はあるものですが、例外に基づくプランニングはハイリスクを伴う、ということを忘れてはなりません。

 タマネギの層のごとき様々な資本の層は、技術革新一覧表に示された各開発段階と対応しています。発明家は、この表を下に進むにつれ、タマネギの中から外の層の方へ向かって行くことになります。但し技術コラムと平行して市場コラムと経営コラムのステップを進まなくてはなりません。これまでずっと述べてきたように、これらのステップを進むにつれ、さらに資金も必要になります。資金が必要になればなるほど、正式で系統立った、製品市場潜在性の証明を、計画書という形で提示しなければなりません。

 手始めとして、タマネギの中心部と外皮という両極端のことは置いておくことにして、中間層に着目してもいいでしょう。片方の極端――労働対価資本――のことなど、発明家は知らなくてもいいのです。また、もう一方の極端――いかなるベンチャーキャピタル機関も技術試作品または製作試作品の段階以前にプロジェクトに投資を行うことはありません(まれに例外がありますが)。ともかく、あなたが発明家でまだこの本を勉強しているのであれば、きっとまだそのような段階には達していないでしょう。

 発明家は、製品定義付けから実動模型へのコンセプト開発に進むにつれ、ますます多くのお金、または信用、労働等の無給貢献などのそれに相当するものを調達しなければならなくなります。そして今度は、投資家の輪を広げる、すなわち、タマネギの中心から外へと向かうことが必要になります。発明家が一旦、自分にできる(あるいは自分がそうしたい)全てを注ぎ込んでしまったら、彼(彼女)の周囲の人々――親戚、友人、その他の個人的繋がりのある人々が――次の資金源を提供するのが通例です。投資家としてはアマチュアですが、彼らはいろいろな個人的理由で発明家を援助したいと考えています。なぜなら、技術的なことは分らなくとも、信頼関係があるからです。無論、中には、初めから上手い話にのっておこう、と考えているだけの者もいるでしょう。第2のゼロックスを逃す手はありませんから。

 しかし、殆どの場合、発明家は、プロの投資家を惹き付ける開発段階に達することなく、このような個人的資金源から集めたお金を使い果たしてしまうものです。このとき発明は「死の谷」に入り、多くは二度と立ち上がることができません(図1「死の谷」参照)。」

 さて、発明家は、身内や友人等の個人的ネットワークを越えて、他人および専門家(つまり第三者の投資家)の援助を求めるようになると、資金獲得活動は、いよいよ本格的なものとなります。この段階の資金源には次のようなものがあります。

図1:死の谷

(谷の上、左より)

身内・友人($0〜25K)

消極的な非正規の投資家($25K〜100K)

積極的な非正規の投資家($100K〜500K) 

積極的な非正規の投資家($500K〜1M)

機関投資ベンチャ―キャピタリスト($1M以上) 

損益分岐

(谷の中、左より)

労働対価資本・個人貯蓄 

新規事業開始資本 

予備投機資本 

投機資

(谷の下、左より)

製品定義 

実動模型 

技術試作品 

製作試作品 

製品紹介 

販売活

プラスのキャッシュフロー

c モホーク・リサーチ社 1999

無断転載を禁ず

・(現在のまたは見込みの)従業員の持分 あなたが従業員を雇っているなら、彼らが自分の時間を提供してくれるかもしないし、中には、自分のお金を投資してくれる人がいるかもしれません。もしアントレプレナーを雇うことができれば、彼(彼女)も財務面の負担をいくらか引き受けてくれるでしょう。創世期のゼロックスにおいて、ジョー・ウィルソンがチェスター・カールソンのためにしたように。

あなた自身がクライアントである専門家  特許弁理士、公認会計士、経営コンサルタントなどは、事業が、経営分担と引き換えに業務を提供するだけの魅力があると思うことがあります。その上、彼らの多くは、自分自身のため、および初期段階の技術に投機するお金を持つ友人のために、将来有望な投資がないか常にアンテナを張っています。こうしてみつかる資金源が次のようなものです。

・裕福な個人から成る、「熟年層ネットワーク」上記に挙げた人々に加えて、医師、歯科医、弁護士、引退実業家などのネットワークです。このような人々は、明らかに財テクの手段として、節税対策として、純粋な楽しみとして、あるいは地域の活性化のためなどの様々な理由で投資を行いますが、共通点がいくつかあります。お互いに知っている、しばしば、以前にも共同で投資した経験がある、投資活動を居住地域に限定している――よって、極めて個人的な地域的(あるいは、せいぜい局地的)ネットワークを形成します。

その上、彼らは、非公式に投資をするけれども、やみくもにお金をばらまいているのではありません。このような人々に援助を要請したら、彼らは、あなたの経験、経営能力、あなたの技術の市場などについて、身内や友人よりも、詳しく知りたがるものです。彼らは、あなたの身内のように、その発明が魔法であるかのような夢物語にすぐに納得したりはしません。それどころか、発明家と投資家候補との間には、宿命的に厄介な問題が存在するのです。発明家というものは、どのような技術的開発段階にいようと、ビジネスとしての問題を脇に置いて、技術的なメリットばかりを執拗に語りたがる習性がありますが、投資家はこれにはうんざりなのです。特に全く反対のことを主張しようとするときは、特にいやなのです。いかなる段階であろうと、投資家を探すなら、技術面ばかりでなく、経営面とマーケティング面の下調べをしておかなければなりません。

そこまでできたら、そして製作品試作段階あるいはそれより先に達したら、さらに別の資金源が開けてきます。それについて次に説明します。

・機関投資ベンチャーキャピタル あなたがプロジェクトと共に技術革新プロセス(図1「死の谷」)を進んで行くにつれ、必要な資本は増大します。同時に、投資家の要求も厳しくなってきます。前にも触れましたが、金銭的関与が深くなるにつれ、主張ではなく証明が、一層重要になります。「他人の金」(OPM)を預かる投資家は、投資ビジネスが魅力的だと思わせるだけの分配金を、その人々に提供できるくらいに市場機会が拡大しつつあるかを、知りたがります。ベンチャーキャピタリストがどの位の利益率を求めるのかは、正確に把握することはできませんが、かなりのものであることは確かです。予想される標準的な基本線としては、10/5法則という目安があります。これは、ベンチャーキャピタリストというものは、投資から5年以内に、少なくとも10倍の収益を得られる事業を求めるというものです(文字通り、5年で10倍です)。これがどういうことか考えてみましょう。あなたが、100万ドルの投資の見返りに、会社の10%をあるベンチャー・キャピタリストに提供するとしましょう。10/5規則から考えれば、彼は、あなたが5年で1億ドル作ることができるという説得力ある証拠を見せることを求めます。結局、100万ドルの資本と引き換えに10%の分担所有権を提案するということは、それだけの利益があがるということを、ベンチャーキャピタリストに信じて欲しいと言ったことになるのです。

 10/5規則は、単なる経験則であり、多くのベンチャー・キャピタリストたちはもっと多くを要求します――これより少なく要求する者はまずいないのです。彼らは、自分達の考える成長について「ホッケー・スティック型成長」という表現をしばしば用います。あなたがもし、「熟年層ネットワーク」の方が多くをあなたに期待すると思えば、そのような人々が見つかるまで待つべきです。あなたの事業にこのような資金調達法を用いる場合は、よく考えることです。この資金を得るためには、専門的な下調べをし、成長を維持させるよう、絶え間ない厳しい努力が必要です。どのステップも、正規のプランニングに基づいて行われます。機関投資ベンチャー・キャピタルが本当に自分のためになるかどうかは、これを実際に利用した経験のある人の話を聞くことも必要です。

そして、ベンチャー・キャピタルを利用すると決めたなら、出資を受けるには、優れた製品だけでなく、有能かつ信頼できるチームにより完璧に練り上げられたプランニングが必要となるという事実を、しっかりと認識しなければなりません。

死の谷から這い上がる

 これらの資金源をまとめて、実際に作動する技術試作品、または製品試作品を製作することができ、専門的な事業計画の中に組み込むことができたら、「死の谷」から脱出することができるかもしれません。ライセンシーの技術資産および金融資産という魔法の翼に乗って、あるいは、プロ投資家のベンチャー・キャピタルという強い推力を得て。これらの要素は、相互に関連しています。技術的な実行可能性を証明することができる地点に近づくと同時に、経営的・市場的実行可能性も証明できたなら、市場への進出は近いといえるでしょう。あなたは、自分の手で(または他の誰かの力で――ライセンシーかもしれません)競合力のある製品を開発する、あるいは新しい企業を立ち上げるための基盤を手にするでしょう。

最も頭の堅い資金提供者にも、いまやあなたが事業に乗り出す手段を持っていると信じさせるに足る論拠を、確実に提示できるでしょう。

 多くの投資家にとって、成功する日は、いつか将来にあるものですが、あなたは、たった今より必要となる資本を求めるにあたって、直面する非技術的質問への確かな返事をしなければなりません。

 ところで、非正規の投資家ネットワークは、地域的・個人的ベースで活動するということを思い出してください。あなたの身近でみつかります。ところが、身内や友人などの親密なつながりを越えた、プロの投資家は、まったく別の物の見方をする人々です。あなたは、お金を稼ぐつもりであるということを、きちんと彼らに示さなければならないのです。機関投資資本源に接近すればするほど、あなたの総合政策は、洗練されたものでなければなりません。

 最後に、お金と所有権の関係に、厳しい真実があるということを覚えておいてください

(支配することとはまた別問題として)。お金を獲得するためには、所有権をある程度まで手放さなければならくなる可能性が大きいのです。正確にどのような率で資金と所有権がトレードされるのかは、場合によりますが、求める資本の額が大きければ、あなたの利権のかなりの部分、確実に殆どを諦めなければならないでしょう。この決定は、何よりも辛いと思う発明家も少なくありません。どうしても所有権を譲る決心がつかず、細々とした事業に甘んじたり、結局は倒産に追い込まれる人もいるのです。断腸の思いで決心する発明家は、100%を失うより、何割か、20%、30%、あるいは40%でも手元に残れば良いと考え、前進するのです。

 権利譲渡の問題は、まったく個人的な決断によります。自分の子供を養子に出すことに喩える発明家もいます。だれもあなたにどうすべきかは言えません。どのような選択肢があり、結果はどうなるかを教えてくれるのみです。個人的な決断であれば、個人的要因を重視して判断することです。何かを取るために別の何かを捨てなければならないときはいつでもそうであるように、自分に問うてみるのです。自分は今、どういう人間か?これから先、どのようになりたいか?当該発明が、自分の人生にどのような意味を持つことを期待するか?発明が成功すれば、人生は大きく変わります。自分なりの方法で変えることです。自分の人生の支配権まで他人に譲渡してはなりません。

第1部のまとめ

ここまで行った作業のポイントは次の通りです。

技術革新プロセスという、この先に横たわる道の概観

事業化戦略の基本的特徴のまとめ。自分に最も適した方法を選択する必要性に言及

技術革新資金調達の概要説明

 第1部全体を通して、技術が成功を見るには、その技術的メリットに関係なく、事業計画が決定的な役割を果たすということを繰り返し強調しました。大半の発明家にとって、技術革新プロセスはまだ先のことです。従って、現時点での課題は、計画にきちんと沿って前進することです。第2章では、この点について詳しく検討します。


第2章

あなたの現在の状況を評価する:第1歩

 技術革新プロセス、事業化戦略、個人で行わなければならない難しい評価と選択、資金調達、系統的プランニングの必要性――こんなにくどくどと、面倒なことをマスターしなければならないのかと、あなたはすでに圧倒されているかもしれません。しかし、ステップバイステップで、進めて行けばいいのです。このような特定の必要条件の多岐にわたる詳細も、自分が今どのような状況か、これからどのような方向に、どのような方法で向かいたいのか、といった大まかな評価をすることによって、少しずつ攻略することができます。技術革新プロセス一覧表が、初期の製品定義から本格的な市場浸透に至る様々なプロセスを提示して、あなたの作業を助けてくれます。ここに示したプロセスは、ある特殊なケースでは、いくらかの違いがあるでしょう。しかし、ゼロックス、ポラロイド、アップルコンピュータ、ベルクロ等の大成功を収めた一流企業を生んだ発明を含む殆どの発明は皆、この常套的プロセスどおりの道を歩みました。あなたも、小遣い稼ぎ程度の仕事でいいと思っているのでない限り、この道に沿って進む必要があります。

 技術開発ステップは、1つのコラムだけなのですから、これだけにあまり時間をかけすぎないようにしなければなりません。市場と経営のコラムの仕事も平行して行わなければなりません。必ずしも正確に同時にやっていかなければならない、という意味ではありませんが(表の上では、そういったことをすべて表しきれません)、もし、どれかのコラムだけ急いで進み、他のものは全く置き去りにしてしまうと、にっちもさっちも行かなくなってしまいます。

 あなたが典型的な発明家タイプであれば、おそらく左のコラムがメインとなり、次の2つは遅れぎみでしょう。もしそうなら、それらについても考え始めなくてはなりません。自分が現在どの位置にいるかを分析するだけでも、発明の事業化を決断する第1ステップを踏み出したことになります。さらに、あなたが一番援助を必要とする部分をクローズアップしてみると、さらに市場化に向かう計画を準備する助けになります。

 あなたの現在地点を調べるには、技術革新プロセス一覧表を前に置き、次のようにしてみましょう。

1.技術コラム、経営コラム、市場コラムをそれぞれ下りながら、済んでしまった項目に線を引きます。

.スキルコラムと人材コラムを下りながら、すでにあなた自身が身につけているスキルがあれば、または誰かを雇う手はずが整っているなら、その項目に線を引きます。

.結果を見ます。パターンはあなたが今どれくらい事業化に近い位置にいるかを、かなり明確に示しているはずです。ところで、ライセンシングを行いたいなら、技術革新段階のほぼ全てのステップを、また、自ら事業化するのであれば、技術革新段階と起業段階をすべてクリアしていなければなりません。同時に、先へ進むためにはどのような助けが必要か、そしてどのようなスタッフを使わなければならないのか、判断できるようにならなければなりません。

 線を引いた表をみれば、あなたが典型的な発明家タイプとした場合、市場コラムに一番力を入れていないのが明白でしょう。左側のこれら3つのコラムすべてについて、詳細に検討して、現在の自分の状況を把握する必要があるのです。従って、まず、分り易いように、技術コラムから検討を始め、次にほかの2つに移ることにしましょう。そうすれば、自分の現在の状況を評価し、特定の障害物に対する課題を順序だてるという形で、さらなるプランニングに着手することができるでしょう。

リズミカルなステップ:試作品開発および製作プロセス

考えをまとめる

技術開発に対し、相当の時間、お金、努力を投資する前に、次の4つの基本的質問に、明快で確かな答えを出すことができなければなりません。技術開発を本格的に進めるつもりであれば、同時に市場と経営面での開拓にも取り組まなければなりません。何度も強調していることですが、技術・市場・経営の3つの要素は互いに絡み合っているため(技術革新プロセス一覧表参照)これらすべての課題に継続的・反復的に取り組まなければならないのです。そして、あなたの答えが修正された場合は、それに応じて計画も更新することが必要です。

1.新規性がありますか?

あなたの発明はすでに実施されているものではないでしょうか?新規性を保護することはできますか?どのようにそれを証明するのですか?

.どのような利用可能性がありますか?

技術の利用可能性を論じることにおいては、「3人寄れば文殊の知恵」と言えます。あなた自身としては、ある仕事をする完璧な製品を思いついたと思っていても、誰かが見て、「なんと理想的な技術だ。」と感心しながら、あなたには全く思いもつかないような利用法を提案する可能性があります。

 自分のアイディアが、自分が門外漢である分野に入ってしまうのでしょうか?この問いに対する率直な答えとして、あなたはそのアイディアを発明に移すには不適であると言わなければなりません。自分の得意分野あるいは専門分野でない発明には、注意しなければなりません。始めから不利な立場に立つことになります。殆どの発明、技術革新、そして新規アイディアが、新規製品と同じ研究分野における、多くのイノベーターの長年にわたる経験や訓練の成果として生まれるのです。

.必要とされていますか?

毎年、何千件もの不要な発明が考案され、開発され、完成され、そして特許を受けています。このようなものは行き場もないのです。あなたも、この質問には正直に答えるか、あるいは誰か他の、正直で公平な答えを出してくれる人を探すべきです。誰にも必要とされていないアイディアを特許化したり開発したりするのに、資金をつぎ込むことのないようにして下さい。

質問2と3に対する答えは、合わせて、基本的な製品定義の中味になります。

4.採算性はありますか?

 事業計画書も作成し、特許あるいはライセンスを持ち、必要な資金も調達できた様子だとします。しかし、あなたの事業は本当に採算がとれるのでしょうか?つまり、あなたの製品は、実行可能な事業を設立し新規製品ラインを創出するのに見合う利益を生むだけのコストと価格で製造・販売することができるでしょうか?もしもすべてがうまくいかないとすれば、何が問題なのでしょうか?複数の、中立的な情報からの数字をチェックしましたか?

この「採算性があるのか?」という質問に毅然と向き合わなければなりません。見込み投資家は、その答えを聞きたがり、その答えに導いた仕事ぶりを見たがります。

自分の事業に採算性があるかあなたがもしこれに答えられない、あるいは、分らないというのなら、今の段階でやめることです。自分で明確な答えを出せるまでは、技術開発にこれ以上投資をしてはなりません

反対に、自分自身と中立的立場の人の両方に対して、あなたの発明の大きな潜在的利益を証明できれば、その先の技術開発ステップに前向きに取り組んでいいのです。

コンセプトから生産へ:

そのステップ

 技術的見地から述べれば、いかなる製品、方法、サービスも、市場に届くまでには、5つの重要なステップがあります。

1.製品定義

2.実働模型/コンセプト証明

3.技術試作品

4.製作試作品

5.限定試作製品

 これら5つのステップの間を埋めるのは、フラフープのような単純な製品ならまっすぐですが、例えば宇宙開発技術のような高度な技術の場合は、大変複雑な作業となり、莫大なお金と時間がかかるでしょう。

 あなた自身の技術のレベルに関わらず、開発を進めるにつれて、表2に示すようなほとんどの試作品模型が、全てではないにしろ、ほぼあなた自身または他の人の手で、製作されます。


表2:縮尺模型/試作品群

モックアップ

実動模型

技術試作品

製作試作品

目的

隣接した各部の関係を示す。

コンセプトの機能状況−特に、全ての連結可動部の相対的動き−を示す。

重要な設計パラメータを示す。また、信頼性、スピード、精度などの試験データを得る。

性能に関する要求事項が満たされ、製造上の問題が解決され、品質管理が達成されていることを示す。

特徴

正確な縮小率により製作されている。実際に作動する必要はない。

必ずしも実物大でなくともよい。最適な作動をしなくてもよい。

通例、手作業により製作されている。実物大が殆どである。試験に対する耐久力がある。

最終製品に限りなく近い。大量生産しないだけである。

 あなたがすでにいずれかの模型・試作品を作製しているなら、技術開発の連続ステップの中で自分が現在どの位置にいるかわかるでしょう。各試作品名のすぐ次の欄は、その各タイプに特定の目的、2段目の欄は、各タイプの大まかな特徴を示しています。

 

 各技術開発ステップを完璧なものとしてくれる、これらの縮尺模型/試作品群について定義し論考することにしましょう。

1.製品定義 ユーザーのニーズと結びついた、新規製品・方法・サービスについての予備的思案です。ユーザーのニーズを満たす技術アイディアを初期段階設計に具現化します。製品定義の理論的有効性を示す初期データおよび図面類を作成します。

技術アイディアをどのようにして文書化するかについては、法律の専門家のアドバイスに従うのがいいでしょう。著作権保護を受けることを考慮し、なによりもまず、日付を付して、製本簿とすべきです。また、あなたがたった今行ったことを理解し記憶できる第三者に対し、製品定義についてどのように説明するかを考えます。

この段階では、お金より時間を十分かけることです。自分の思考に徹底的に批判的になり、資料を深く読み、いかなる仮説も試さずに採用はしないことです。モックアップを作って、友人、家族、協力者、同僚、親しい恩師等に見てもらい、皆の質問に全て答えます。あまのじゃくな質問をしてくる人々の意見は特に耳を傾ける価値があります。――彼らは、何故つまらないと言うのか、これでは使い物にならないという根拠は何か。このような分析には、ともかく時間がかかります。いくらでも時間を費やして検討しましょう。

2.実動模型/コンセプトの証明 技術コンセプトを実践し証明するための模型です。多くの場合、実寸法より小さく、低コストで粗めな造りになっており、最適な可動を示す必要はありません。最も基本的な作動パラメータをテストし、技術試作品の参考にすることを目的とします。

この段階に入ると、もはやいろいろ言い訳をすることなく、真剣に実現可能性を求める時期です。実動模型は、あなたがそのような物を作る才能があり、プロとしての水準に達するだけの手先の器用さを供えているのでない限り、自分で製作しようとせず、試作モデル製作のプロに任せるべきです。お金を払って、優れた試作品を作ってもらうのです。実動模型は、動かなければ、アイディア(コンセプト)の証明としての意味がないということを忘れないでください。もし、正しく製作されたにも拘わらず、動かないなら、最初のステップに戻り、もう1度モックアップを作り直します。コンセプト証明試作品が完成しない限り、次のステップには進んではなりません。

3.技術試作品 製品や装置、プロセスの実動を示す模型であり、運転性能、製造要件などに関するデータを収集することを目的としています。多くの場合非定型で、特殊な装備に装着させたもので、手作業による製作であることが殆どです。ただし、製作試作品の製造が可能かどうか(もしくはその必要があるかどうか)を判断する必要上、常に十分な作動する技術レベルは備えていなければなりません。

技術開発という見地から、実動模型から技術試作品へと推移してスケールアップするにつれ、論理的にはより精巧なモデルとなっていきます。そして、すでに指摘したように、このような試作モデルを作るのは、あなたの発明を投資家やライセンシーに「買ってもらう」ためなのです。彼らには、臆測ではなく、系統立てて導き出され、独立して有効性を証明されたテストデータを示さなければなりません。そのためには、1つの技術試作品を作るだけでは駄目で、何度も改良を重ね、その結果、最終的に最高のモデルを提供できなければなりません。

この段階に入ると、ますます費用も時間もかかるようになり、フラストレーションもたまります。お手製の試作品に必要なものは、次のようなものです。

高価である

入手困難である

独占販売権をもつ、あるいは

未知のものである

更に悪いことには、技術試作品第1号は、恐らく、実動模型ほどは、うまく動いてくれないでしょう。そこで、改良し、再設計・再組立て・再テストを行ううちに、お金は飛んでいくでしょう。時間が悪夢のように過ぎて行きます。時は金なり、なのですから。

4.製作試作品 実寸大で、完全に作動する模型です。製造品目の実際の製造・製作要件を特定する目的で設計されます。操作性能や耐久性に関する、製作前段階での最終データを得る目的もあります。通常、手作業により製作され、フル生産にかけられる最終製品、最終プロセスの設計基準に、可能な限り条件を一致させなければなりません。

ここまでくると、一気に高価な人材を使わなければなりません。ほんの少しを列挙しても、CADデザイナー、工具・ダイ製作者、設計技師、配送係、設備プランナー、そして生産技師(一番使いにくい人達でしょう)など、正真正銘の製作試作品を完成させるには、これら全て、あるいはもっと沢山のスタッフが必要でしょう。ステップ2と3で作製した品目は、実際に市場に出しても成功しないでしょう。何故なら、余りに製作費がかかりすぎ、十分なセーフティ・ファクターを具現化せず、また、(これがもっとも深刻な問題ですが)適度な製品寿命を通して仕様どおりの性能を示すことができないからです。そうではないと証明しようとするうちに一文無しになった発明家が多くいます。あなたの評判は、効率・耐久性・安全性を兼ね備えた製品を作ることができるかにかかっています。未熟な試作品を余りに早く市場に出すと評判を失うことになるのです。

5.限定試作製品 実寸で、完全な動作性能を備えたモデル製品です。最終製品に可能な限り近似した条件のもとで、最初の限定生産により製作されます。最終確定した生産ラインが、設計基準に見合った製品を製造することができるかどうか確認するためのものです。限定試作製品は、独立した第三者団体の検査・試験を受けることが多く、特に製品が産業基準や行政監督基準に適合しなければならない場合、この種の検査は必然です。

このステップまでたどりつけば、市場は目の前です。限定試作製品作りには、途方もない時間とお金がかかります。なぜなら、必然的に、かつて経験したことのない問題と取り組まなければならないからです。ほんの少し例を挙げても、安全性、法律、規制、責任、消耗、製品侵害、損益分岐サイクル、汚染問題等々、実に様々な問題があります。しかし、これらの検定は、技術開発プロセスに最後の仕上げを加えるものです。というのも、ある意味では、技術開発プロセスとは、より良い設計を目指してさらに高度のテストを行うために、一連の試作品を構築することにほかならないのです。

技術をテストする

 開発テストの計画書というものを見たことがある発明家/イノベーターは、あまりいないでしょう。ましてや、自分でそのような計画を策定したり実行したりしたことのある人は、まずいないでしょう。それゆえ、できるだけ早い時期にこの分野で専門家を雇うことは、賢い投資かもしれません。テストは、通例かなりの費用をかけて行われます。それに見合う最適の収益をあげるため、適切な計画、実行、評価をしなければなりません。

技術とその市場

 実動模型をまだ作っていなくても、恐らくここでそれを急かす必要はないでしょう。自分の発明が作動するのを見たいという発明家の欲求が、通例は十分な動機となります。実動模型から技術試作品へのスケールアップは、技術開発の観点から、当然のこととして行われます。その上、すでに指摘した通り、これらの試作モデルを作製するのは、投資家やライセンシーに発明や方法を「買ってもらう」ためです。繰り返しますが、彼らは、当て推量ではなく、系統立てて導き出されたテストデータを求めるのです。このようなテストデータを示すことができれば、製作試作品に近くなればなるほど、あなたの説得力は増します。

 しかし、だからといって、判で押したように、実動模型というコンセプトからさらに技術試作品というプロセスを行わなければならないということではありません。このように試作モデル類を製作しなければならないかどうかは、そのような作業が技術的に実行可能かということだけで決まるのではありません。それと同じくらい(少なくとも)、潜在的市場がその出費を認めるか、ということ次第でもあるのです。換言すれば、あなたの作業に報い、あなたへの資金提供者に相当の利益を配分できるだけの大きな市場が存在しないのであれば、出費を続けながら技術開発に固執すべきではありません。ただ作動するか調べるために、試作モデルを作り続けても意味がないのです。冷静に市場を研究することもせず、試作品作製に熱中することは、ビジネスではありません。単なる趣味です。そのような経済的余裕もあるし、そうしたい、というのであれば、それはそれでいいでしょうが、自己満足もほどほどに。ますます高度な技術を開発して、援助を仰がなければならないビジネスのプロ達を、からかうようなことだけはしないように。あなたがレオナルド・ダ・ヴィンチのような才能とインド諸国のような富を持つ人であれば別ですが(第一、もしそうであれば、このような本を読んではいないでしょうが)。製作試作品に近づくに連れて、必要なスキルと資金は何倍にも増大します。

 あなたの必要とするスキルや資金を持っている人達に共通していることは、彼らは趣味であなたに手を貸すのではないということです。彼らは、プロフェッショナル。主張ではなく証拠を見せるべし。(これを標語にして、仕事場の壁にでも貼っておくことです。)「これなら、誰もが欲しがりますよ。」とか、「動くのを見れば、欲しくなるはずです。」とか、「今の株主が、これ見送っても、明日は新しい経営をすればいいのだから。」などと主張ばかりしていると、自分が如何にアマチュアかということを露見してしまいます。あるプロの投資家はかつてこう言いました。「我々は、会社ゴッコに付き合っている暇はない。」彼のような人にとって、また、あなたが援助を求めたい人の多くにとって、系統的な市場分析に明確に表された、たゆまない、真剣な、市場への取り組みこそ、プロフェッショナルの証なのです。

 さて、製品を市場に投入する(商品化する)プランニングの第1歩は、製品を開発し、その定義が明確であるかを頻繁にチェックし、その結果、市場要件を確認することです。あなたも誰も顧客に「買いなさい。」とは言えないのです。市場知識、宣伝活動、販売戦略、世評、品質…。これらが製品を売るのです。希望的観測や夢ではなく。技術それ自体では売れないのです。売る努力をし、また、更なる開発を正当なものとするために、売れるという証明をしなければならないのです。そうすることにより、技術開発における現在の段階との関連により、市場分析という観点から、自分の状況がわかります。遅れを取ってしまったと思えば、すぐ追いつく努力をしなければなりません。何をさておいても、系統的市場分析をまだ始めていないのなら、すぐに始めましょう。

市場分析:確かに動く…だからといって売れるのか?

 いままでのところで、いかなる事業化戦略にも試作モデルが必要であるが、モデルを開発するためのあらゆる出費は、市場が認めるかどうかを考えなければならないということを述べてきました。何度でも繰り返しますが、試作品が動くということが、即、開発費をカバーできるほどの顧客がつく、ということではないのです。技術開発の各段階を進むにつれ、潜在的投資家、ライセンシーなどからのプレッシャーがますます大きくなります。どのような消費者層がつくか、どのような商品販売経路があるか、どのような競合製品があるか、それをあなたの製品が打ち負かすにはどうしたらいいか――このようなことを、彼らに証明しなければならないのです。

 あなたの技術が市場に出るのが近づくにつれ、市場分析は、(他の作業も同様ですが)一層複雑化します。ライセンスするにせよ、ベンチャーするにせよ、本格的な市場分析は、見込み投資家・ライセンシーにアピールするための、重要な基盤です。どちらにせよ、適切な市場分析は、事業化計画における必須の要素なのです。技術開発の各段階で、次で触れるような質問に対する詳細な回答文書を作成すべきです。今現在、必要な情報をどの程度把握しているか、自問してみましょう。

市場の明確化

 特定の購買者層が求めるものを、あなたの製品が満足させることができますか

 あなたの製品を買うのはどのような人々でしょうか。顧客となる可能性の高い人々また企業を特定し、リストを作成できますか?彼らが顧客となるという根拠は何ですか?

 そのような顧客の購買意欲をそそる製品特性はどのようなものですか?あなたの製品はそのような特性を備えていますか?

 タイミングは適切ですか?あなたの製品が買われる前に、なんらかの事態が起こる必要が(または何らかの条件が存在する必要が)ありませんか?あなたの製品が現れてすぐ消える(あるいは、消えたと同然になってしまう)ということにはならないでしょうか?それとも、今こそ最適のタイミングですか?何故そう言えるのですか?

 あなたの技術革新のための市場が、たった今存在しますか?存在しなくとも、まもなく現れると考えざるを得ない理由が存在しなくてはなりません。存在するなら、その市場の状況について、そしてあなたの技術が、その市場とどのように関連しているかについて、いくらか説明できなければなりません。

市場の規模

 あなたの目指す市場を定義してみてください。その市場のいろいろな層を特定し、販売の単位という観点から、その規模を推定してください。

 この種の情報は得にくいもので、空想の世界へ入り込むよう感じがするかもしれません。しかしこれは、投資家またはライセンシーの決定の開始ポイントなのです。なんといっても、自分の技術の技術的可能性を推測できれば、その市場の可能性も推測できるのですから。

顧客

あなたの製品のエンドユーザーは誰でしょうか?

 エンドユーザーイコール顧客という場合ばかりではありませんが、あなたの製品は当然、エンドユーザーのニーズを満たさなければなりません。あなたの製品に対するエンドユーザーからの需要に影響を与える特性を、詳細に分析する必要があります。例えば、エンドユーザーが小売客である場合と、メーカーである場合は、特性が異なるでしょう。

流通経路

 自分の市場を知るということは、エンドユーザーを知ること以上のものがあります。生産者からエンドユーザーへと商品を配給する流通経路がどのようなものかについても、知らなければなりません。合衆国のように、高度な経済が発展している社会には、考えられる限りのあらゆる製品について、複雑な流通経路が存在します。もし、このような経路が存在していなければ、その事実自体があなたの市場進出にとって大きな障壁となります。経路の問題を克服する戦略をたてなければなりません。実際、アメリカの多くの主要産業構造は、製造上の必要性よりも、現在の流通経路では新規製品には不適だと考えたことから、結果的に構築されたのです。そのような例としては、食肉包装業、農業機械、自動車、ミシン、事務機器、コンピュータ・ソフトウェアとハードウェアなどがあります。

 あなたの製品に適する流通ネットワークは、おおかた存在するでしょう。この事実が、「あなたの顧客は誰か?」という問いに、集約されていきます。例えば、あなたが、ある種のキャブレターを発明し、自動車会社に、その販売する車に取りつけてくれるよう、またドライバーに、今乗っている車に取りつけるよう、説得したいと思っているとすれば、2種類のエンドユーザーを特定したことになります。しかし、このどちらもあなたの顧客ではないのです。顧客を見つけるには、キャブレター分野の新規の代替市場に供給を行う流通網を発見し、そこに集中的にアプローチしなければなりません。多くの発明家が、実際には顧客ではないエンドユーザーに売ろうとして、あるいは、エンドユーザーのニーズを考慮しないで顧客に売ろうとして、貴重な時間と資金を無駄にしています。実際、あなたの製品は、流通経路のあらゆるリンクに対応しなければなりません。

 それゆえ、自分の製品が製造業者からエンドユーザーへと移動する流通経路を知らなければならないのです。それぞれの中間ステップと、それに関わる会社のことも把握していなければなりません。例えば、キャブレターは、製造業者(大企業)から直接自動車組立て業者(大企業)へ流通する場合もありますが、一方では、製造業者から卸商(通例中規模企業)、地元の卸商(通例、自営業または商会)を経て、地元の代理店、新車ディーラー(自営業、商会、もしくは自動車会社が無条件で所有する店舗)のパーツ部または地元のパーツ店(フランチャイズ契約もしくはその他)と流通する場合もあるでしょう。どういう流通経路を通るかは重要なことです。

あなたは自分の製品の流通経路を知っており、関わっている具体的な会社名を全部言えますか?

あなたの顧客は、エンドユーザー、又は流通ネットワークの構成員ですか?

競合

 市場で成功するためには、競争上の優位性と不利性など、競合について知らなければなりません。あなたの製品の競争相手について詳細なリストを作成することができなければなりません。競争相手はないと言うのなら、それを証明する必要があります。あなたの製品が出るまで、顧客はどのようにして自分の問題を解決しているのだろう?と自問してみましょう。実のところ、競合がないということは、市場もないという可能性も考えておかなければならないのです。

 また、自分の技術を、すでに市場化されている製品と差別化できる明確な特徴を挙げ、その差異について解説できなければなりません。製品開発のどの時点であっても、差異点を少なくとも3つ挙げることができなければ、止めることを考えなければいけないかもしれません。その上、差異点について回答することで、なぜ潜在顧客があなたの競争相手からの購入を止め、あなたから買おうと決心するか、ということを説明できるはずです。

 技術開発を進めるにつれて、継続的に製造コストの見積もり(いかにおおまかなものでも)と市場の潜在性(いかに準備段階のものでも)を、事業化戦略の中の検討項目に入れなければなりません。市場化目前の試作品段階になるにつれ、増大する仕事とスキル、増加する人員、波のように押し寄せる情報が、あなたの事業経営能力にプレッシャーをかけてくるでしょう。会社の構造が、進化する技術開発・経営戦略をしっかり支えてくれるような枠組みを構築する必要があります。

経営開発:技術革新プロセスの戦略と構造

 「死の谷」の図解が、技術革新における資金繰りを示したように、技術革新プロセス一覧表は、適切な経営構造の前進的発展を暗に表しています。本当に、コンセプトから市場への軌跡をうまくたどるには、適切な経営組織が存在しなければなりませんが、このことは、技術革新プロセス一覧表のスキルコラムと人材コラムを見れば明らかな法則です。つまり、技術開発が進むにつれ、チームワークが必要になってくるのです。(街角の八百屋や床屋より遥かに複雑な組織でしょうから。)また、それほど明白になっていないにしても、――といっても、同じ位確かなことですが――投資家に、開発は成功に向かって前進していると納得させると同時に、彼らに有限責任などの法的保護手段を与えるような、経営フォーマットを作成することを、イノベータ―に余儀なくさせる、開発のための十分な資金を調達するプロセスを示さなければなりません。 

 あなたがまだ機能的な経営を行っていなければ、次のようなことを行う必要があります。

ゼロから事業を構築する

既存の会社とパートナーシップを組むか提携をする、または

・ライセンシーを見つける

しかし、2つめと3つめは、完全にあなたを問題から解決してくれる戦略ではありません。なぜなら、既存の会社に魅力的な獲得だと十分思わせるだけの、技術(よって経営組織も)を開発しなければならないのですから。実のところ、いかなる事業化戦略を選択しても、その選択は、必然的にビジネスにとって構造的重要性を持っているのです。なぜなら、あなたは、利益を得ることを目指して技術を開発することを決意したその瞬間に、自分で意識しようとしまいと、ビジネスを実行したことになるのですから。(これに疑問があるなら、試しに、国税局に、企業活動に関する課税対象から免除してくださいと言ってみてください。)それゆえ、いかなるイノベータ―も、資金探求を含めて、経営組織とその技術革新プロセスとの関係について、基本的な知識を持つべきです。

 事業をゼロからスタートする場合は、通例、次のうちいくつかまたはすべての段階を通過します。

1.個人事業経営(「債務不履行」条件)

2.有限責任付き個人事業経営 (法人)

3.パートナーシップ(「ダブルフォールト」条件)

4.有限責任付きパートナーシップ(制限的パートナーシップ)

5.非公開会社(株式非公開)

6.公営企業(株式非公開)

 これらの段階は、持続性的市場進出を成功させるという最終目標へ進む途中、2つの一般的目的を達成しなければならない、という戦略を追求した結果、特定されたものです。その2つとは次のことです。

1.資産を確保し、経営管理チームを編成し、市場性の高い製品を生産するという目的に適う、法令形式を構築する。

2.投入高と生産高の比率が最適となる構造の枠組みで、人材とスキルを組織する。

 上記1は、勿論、次のようなことを行うために必要な法律諸様式の拡大しつつある集大成(そして勿論、弁護士費用)を意味しています。

投資家の有限責任を保証する

・所有株券を、資本注入および主要人員と交換する

・環境保護や従業員の福利厚生に関する、多くの地域法・州法・連邦州に準拠する

損害賠償保険を保証する。そして最後に、大きな夢が実現したら、

株式を上場する

上記2は、具体的には次のようなことです(数ある中でもとりわけ)。

必要なスキルに優先順位をつける

優先すべきスキルを適切な連続的に雇用により確保する

・人材と任務を、説明のつく結果を出すような組織に編成する。すなわち、特定の目標および当初の計画の目的を達成し、かつ計画を修正・更新するためのデータを収集する。

組織を修正し、成功要求に対応できるような、あるいは低い業績の原因を排除するような枠組みを作る。

 このような構造的進化の成果は、会社の組織図に明白に現れるでしょう。いろいろなスキルが、専門化された一連の部門に機能的に配置され、スタッフ組織として表現されるでしょう。このような言い方をすると、「フォーチュン」誌のトップ500社でなければ不可能に聞こえるかも知れませんが、どんな小規模な企業でも、目標と目的を修正しながら新たな戦略を実行することを可能にする構造的変化を予期した計画を立て、それに基づいて、現時点で系統的に機能しなければならないのです。このような計画なくしては、最も有望な技術でさえ、失敗した小規模企業のリストに埋もれてしまう可能性が高いのです。

 あなたが今どういう状況にいようと、あなたのアイディアがまだどれくらい市場から離れていようと、どのような事業化戦略を選択し、かつそれを支える構造的基盤をどのように構築するかということを考えるのは、早いうちにこしたことはありません。エマーソンと、例のばかげた「より優れたネズミ捕り器」理論は、忘れてしまうのです。「アメリカの商売は商売だ。」というクーリッジの理論を思い出し、これに習ってプランニングしましょう。まず、会社組織にはどのようなものがあるか、リストを入手し、あなたの会社はどのパターンかを調べます。それから、他のリストも見て、あなたの現在の技術開発と市場開発状況に相応しい目標と目的に印をつけます。そして、自問してみましょう。「私の会社の現在の組織は適切だろうか?この組織が、私が取っている戦略を支える基盤となるだろうか?それは、いつまで持ちこたえるのか?」

 ある程度までは、自ら答えが出せなければなりません。例えば、あなたの会社の組織図が、図2か図3のようなものなら、あなたの会社構造は、株式を一般大衆に売ることで製作試作品を開発するような財務活動を支えてはくれないでしょう。一方、あなたが現在、ガレージでバルサ材のモックアップを作っている段階なら、まだ、図4のような組織を構築する心配をするには及ばないでしょう。

 しかし、一般論としては、経営組織と税との関連、様々な法的優遇を受けるのに適切な組織、そして、様々な資金調達法と構造との関係などの問題については、弁護士の専門的アドバイスに従うのがいいのです。プロに法律関連のアドバイスを頼むと、皆、事業計画書に関しては、断固として絶対譲らないでしょう。なぜなら、計画書無しでは、彼らのあなたへアドバイスできる力が(そして、あなたの法律に従う力も)、極端に制限されてしまうからです。

 さてこの第2部では、自分の技術に適する事業化戦略を選択すること、そして市場への苦しい道のりの中で、適切で満足のいく役割を果たすことの必要性を説明してきました。そして、技術・市場・経営の3つの次元から系統立てた分析とプランニングを、今すぐに実行する必要性を、繰り返し力説してきました。

 もう、あなたは、技術革新プロセスのどの地点に自分がいるのか、かなり明確に判断できるようになっているでしょう。そして、系統的プランニングを行うために、どのような情報が必要かを検討する感覚も身についてきたことでしょう。そこで、次はプランニングのプロセス自体について解説します。

プランニングという仕事に立ち向かう

 プランニングというものを、特に学んだり、関わる機会を持ったことのある発明家は、殆どいないようです。その上、多くの発明家は、やってみようという気持ちすらないのです。いつかはあなたも、多くの部分から成る、洗練された、いかにもプロ風の、本格的事業計画書を作成する(または、作成の発起人になる)日が来るかもしれませんが、それはまだ将来のことでしょう。要は、とにかく、事業化計画書というものに今すぐ着手することです。そしてそのプランニングの実現は、技術開発と同様、段階的・継続的なプロセスで、完成品がある日突然出来上がるわけではないということを認識することです。後に全速力で走るために、最初はのろのろで構わないのです。

 実は、事業化計画というものは、技術と全く同じように進展していきます。最初は、単純かつ簡略に始まり、あなたが市場の理解を深め、自分が果たす役割がわかってくるにつれて複雑かつ詳細になっていきます。また、状況から、身内や友人ではなく見知らぬ人々と関わらなければならなくなるにつれ、複雑な問題を、なおいっそう詳細に検討しなければなりません。そして、必然的に複雑さが増していくにも拘わらず、単純明快で断定的にあなたが何を、どう達成したいかについて、表現しなければならないのです。何にも増して、あなたの計画書は、常に、あなた自身とあなたの目的を反映するものでなければなりません。

計画書を執筆するのは誰?

 この返事は、とりあえず、「あなた」です。今または後に、誰か他の人に任せるとしても、あなたは計画書の最大の寄稿者、論評者、および実施者でなければなりません。なにしろ、あなたの目標と目的を盛り込むのですから、あなたがその実施を監督しなければならないのです。あなたの技術について述べたものなのです。あなたのスキルのレベルがどの程度であっても、あなた以外に適任者はいないでしょう。結局は、習うより慣れろ、です。また、あなたが今、どの段階にいようと(コンセプトのレベルでも)、今ほどよい開始期はないのです。今始めるなら、現在の自分の技術開発、市場開発、経営開発を評価することにより、第三者(投資家、銀行家、見込み従業員など)に見せるときが来た場合、ゲームではるかに優位にたつことができるのです。


図2


図3


 



4

 


どの程度の複雑さが要求されるか?

 計画書はどのようなタイプで、どの程度複雑なものにするか、ということは、次のようないくつかの要因で決まります。(ただしこれだけではありません。)

技術開発における現在の段階

あなたが選択する事業化戦略

あなたが選択する成長戦略(自己資金調達、ゆっくり着実に、または高度成長)

・あなたが開発に必要な資金

あなたがアプローチする資本の出所(家族、非正規の投資家、銀行、機関投資家)

 計画書は最初は、あなたの事業の簡単な説明――技術だけではなく、経営管理、事業化戦略、開発に必要な資源についての情報など、事業の全体像――かもしれません。しかし、技術革新プロセスを進むにつれ、あなたは市場についての知識を得て、計画書もその知識を反映するように修正が重ねられるでしょう。のちに、当該発明の事業化の夢が叶ったら、あなたの古い計画書は、まるで子供の頃の写真を見るように、懐かしいものとなっていることでしょう。

どのように着手するか

 まず、短期目標なり長期目標なりを一般的な言葉で書き表してみます。次に、この目標を達成するために行わなければならない一つ一つの課題に分解し、これらを順に並べます。これらの仕事は皆、期限や方法が限定されていて具体性があり、目に見える結果を伴うものでなければなりません。つまり、あなたにもスタッフにも、それぞれの仕事が完了したことがわからなければなりません。もっと大事なことは、他の人に――例えば、見込み投資家に――あなたが、目標を設定しそれを達成する方法がわかっていることを、証明するということです。例えば、あなたの技術の為に部品をより効率的に生産する、ということを目標にしたとしましょう。これに疑いを差し挟む人はいないでしょうが、「競争入札方式により、機械工場の建築請負業者を7月1日までに決定する」などと具体化し、なすべき仕事を示さない限り、その達成度を計れるような具体性のある目標を設定したことにはなりません。

 必要な資源、仕事、達成度という観点から、慎重に目標・目的を設定できれば、事業化計画は明確で具体的なものとなってきます。

 次に、数ぺ―ジにわたって、プランニングのプロセスと、計画書そのものについて論じます。ここは特に集中して真剣に読んでください。あなたの技術の商業的未来は、それにかかっていると言えるのですから。

ライセンスのプランニングかベンチャーのプランニングか

事業化計画書の役割

ここから、次のようなトピックについて検討していきます。

あなたの技術に相応する事業化戦略を選択し、あなたの役割を明確化します。

あなたの事業化戦略および個人的戦略を、首尾一貫した建設的な事業化戦略にまとめげます。

・技術開発プロセス、市場分析、および経営開発の一連のステップの中で、あなたの技術が、現在どの位置にいるかを把握し、技術開発費と市場の潜在能力との副次的関係を明確化します。

・あなたの市場とそこに進出する方法を評価します。

・ライセンス戦略とベンチャー戦略について詳細に検討します。どちらにせよ、成功するには効果的なプランニングが必要であることを強調します。

資本を調達し、様々な開発段階と潜在的資金源を関連付けます。

 事業化計画書作成においては、これらのトピックが融合し、計り知れない潜在的価値を持つ文書となるのです。ただし、ここで、情報とプランニングという観点から(どちらにせよ)、あなたの現在の状況を把握する方法を示すからといって、いきなり洗練された事業化計画書の作成を指導するつもりはありません。厳密な意味では事業計画書とは言えないかもしれません。急ごしらえの計画書を薦めるのではなく、系統的プランニングを行うことがいかに重要かを、あなたに理解してもらうこと、そして正規の計画書を作成するためのいろいろな方法を示すことが目的です。

 事業化計画書を作成するということは、大きな一歩を踏み出すということですから、そのプラス面を最大限に利用するべきです。このプラス面を最大限に引き出すための1つの方法は、本書で提示する様々な質問に答えるなど、真剣な努力です。すべての質問に答え終わったとき、あなたの手元には、効果的な計画書を作成するために必要な資料が、山のように揃っていることでしょう。あなたの答えが詳細で正確であるほど、その先がよりうまくいきます。事業化計画書は、当該技術とそれを市場化する方法について、包括的に記述するために、率直に表現しなければなりません。できるだけ肯定的な表現を用い、当該事業主自身、市場、マーケティング戦略、資金調達について論じなければなりません。真実と証拠だけが、信頼できる、有益な計画書を支えるということを忘れないように。

 プランニングは、次のようにいろいろな意味で、あなたにとってプラスになります。

・あなたがどのような方法で、自分の技術を事業化するかというアイディアを具体化することができます。

自分の事業に対し受身にならず、積極的に製品開発を管理する意思を持つことができます。

他人に、あなたとライセンス契約を結ぶこと、あるいはあなたに投資することを考慮させるために、必要な情報を収集するのに役立ちます。

いろいろなオプションや代替案を開拓するのに役立ちます。

常に指針とすることができる、そして指針とすべき、行動計画が確立されます。

目標をたて、実行する目的を設定するのに役立ちます。

 長期にわたる、詳細なプランを作成することで、見込みライセンシーまたは投資家に提示するための説得力ある資料を揃えることができるだけでなく、同時に、当該事業に必要な資源についても知ることができます。また、事業を推進する過程および結果的に派生した事業を経営する過程、すなわち、ライセンシーと共に商品開発を推進する過程において、あなた自身が果たす役割を決定する指針ともなります。ここで、間違ってはならないことは、たとえあなたが、使える技術――製品化して採算性のある大きな市場が存在する技術――をすでに持っているとしても、成功するには、やはりプランニングが必要であるということです。成功の先触れとして、そして、自分の技術の更なる開発を決断するデータを集める手段として、事業化計画書は素晴らしいスタートとなるでしょう。

 事業化計画書を創案・作成するためには、考えをまとめ、仮説を形式化し、それらで予測を行い(あなたの技術が到達した段階により、5ヵ年予測など)、すべてを文書化するという作業をしなければなりません。実際、このようなことをした経験のある人は殆どいないでしょうから、困難な仕事に思えるでしょう。その一方、殆どすべての人が、略式のプランニングに基づいて行動しています。腰掛けて、「さて、どうやって、この発明の資金源を見つけようか?どのように時間を遣り繰りしようか?技術的問題は、誰にアドバイスを求めればいのだろうか?」と、考えていたのなら、それが略式プランニングを行っていたということです。ですから、この略式の思索を、当該技術を市場化するのに必要なすべてのステップを網羅した系統的プロセスに高めればよいのです。実際、技術革新プロセス一覧表上のいろいろな仕事、スキル、人材を線を引いて消していったとき、あなたはすでに、その作業を始めていたのです。

 ベンチャーすることに決定した場合、いずれは、正規の事業計画書が必要になります。専門家の助けを借りた方がいいかもしれません。実際、そのような事業計画書は、広く認められた一般的な形式を整えています。非常に複雑なものから割に簡略なものまで、様々な目的と読み手を想定して作成されます。あなたがベンチャーを考えているのであれば、計画書の基本だけでも知っておかなければなりません。何故なら、実際に執筆するのは、他のスタッフでも、必要な情報を開示する主な責任を持つのは、あなただからです。事業化計画書はできるだけ早めに着手するべきです。内容を考えるとき、そのことを覚えておいてください。

 パートナーシップを結ぶ、またはライセンスすることに決定した場合も、やはり正規のプランニングを行う必要があります。とりわけ、ライセンシングには、さらに詳細かつ精密な計画書が必要です。技術をライセンスすると、ベンチャーする側はあなたより大きな支配権を持ちます。ライセンサーであるあなたよりも先に、修正したり臨機応変に物事を処理したりすることができます。ライセンシングとパートナーシップを結ぶことにおいては、いろいろな確約、約束、選択権が正式な契約書中で規定されます。「向こうは大企業だ。全部やってくれるだろう。」などという、誤った安心感に浸ってはなりません。では「向こう」があなたのようなものの見方をしていなければ、どうでしょう?あなたの製品のライセンスを取得した時の経営陣が変われば、どうなるのでしょう?パートナー契約やライセンス契約を締結すると、少なくとも、いくらかの支配権を相手に譲り渡すことになります。この譲り渡すというのは、前もって確約してもらいたいということです。あなたが正しい確約をしているかどうかを知る唯一の方法が、正式の、書面による計画書を作成することなのです。

 ライセンスを望む、経験の浅い発明家は、正式のプランニングを行うという考え自体を、技術開発のはるか向こうに追い払ってしまい、「人のために事業計画書を作るなんて、できません。」と、しばしば主張します。それは確かに本当ですが、ここまで繰り返し主張してきたように、正式の事業計画書だけが、技術革新プロセスにおいて必要となるプランニングではないのです。実際、技術革新プロセスにおいては、製品の市場化のための技術的、市場的、そして組織的必要条件についての情報をだれかが生み出してこそ、正式の事業計画書が妥当なものとなるのです。ライセンスにおいては大抵、事業化計画書は、ベンチャーにおけると同じくらい、あるいはそれよりもっと、決定的なものなのです。

 ライセンシングにおいて、正式のプランニング・プロセスは、あなたが移転しようとしている技術の価値を確定するということに決定的意味を持ちます。書面で証拠を示さなければ、あなたの交渉における立場は、著しく弱いものとなります。同じくらい重要なことは、ライセンス契約を結ぶとき、技術が市場化に近くなるにつれて取り組む必要がでてくる技術・市場・経営面での問題を明確化する計画書なしでは、その道を進んで行く機会を失うのです。

 事業化計画書は、いろいろなレベルでの書き方があります。基本的アウトラインとして、技術開発の初期段階における簡単なステップバイステップのガイドとして、市場分析などの仕事をしているとき、ほかの必要な情報を思い出させるものとして、あるいは長期的・短期的目標を明確にする手段としてなどが考えられます。時間がたつにつれ、正式の事業計画書またはライセンス計画書(あるいはその両方)を作成するのに必要な情報が引き出されてきます。しかし、技術革新の初期段階のうちでも、事業化計画書に取り組む価値はあるのです。ライセンスするにせよベンチャーするにせよ、ともかく、このような計画書は必要だからです。具体的内容と、詳細度のレベルが異なってくるだけです。あなたの開発チーム、潜在的ライセンシー、見込み投資家など、あなたが援助を求めるあらゆる人々が、あなたの事業化計画書と計画書から発せられる情報の最終的な読み手となります。

基本的な計画書の構成要素

 ベンチャーするか、ライセンスするか、あるいはパートナーをみつけるか、まだ決定していなくても、事業化計画の適切な手始めとして、次のような基本的アウトラインを用いるとよいでしょう。いかなる基本的計画書も、次のような構成要素を含めることにより、事業化戦略に関する決定を行うのに貴重なツールになります。

・表紙

・目次

実施要項

事業、製品、市場についての詳細な論考

 自分自身で事業を始めることを考えているのであれば、上記に加えて、会社、マーケティング戦略、オペレーション計画、および管理計画についての詳細が必要です。それぞれの、セクションは次のようなサブセクションから構成されます。

事業

 読み手に、あなたの事業の背景的情報、および事業チームについての情報を提供します。具体的には次のような内容です。決して、アイディアをどのように得たか、や発明の技術的的確性について何もかも述べる部分ではありません。

・あなたが何をしたいのかを伝える簡潔な声明(すなわち、ライセンスか、ベンチャーか、合弁か、販売か)および、その事業化戦略のメリット

・あなたの事業、その組織の説明(例えば、個人企業か株式会社か)、事業の内容、方法

・事業チームの説明 ―― 事業を完遂できるだけの技術的・経営的資質の証明、業務上の提携者に関する同様の証明、およびあなたの会社の経営陣の情報など。

・外部の専門家についての説明 ―― どのような業務の人々か、彼らがあなたの計画にどう影響しているのか

 事実上、このセクションが、あなたが創出しようとしているビジネスチャンス、当該事業に対するあなたの決意、そしてあなたの前進する能力を人々に知らしめる部分です。

製品

 専門的な言葉使いにより、あなたの発明について読み手に説明する部分です。潜在的投資家、見込みライセンシーなどの技術的素人にも理解できるように書かなければなりません。できるだけ、簡潔な言葉で、当該技術についてよく理解できるようにまとめます。具体的には、次のようなポイントを盛り込みます。

発明の名称

発明の内容

潜在的応用例

市場化のために、さらに成すべき仕事

市場

 あなたの市場の規模と性格を示し、あなたの事業が、勝算があると読み手に納得させる必要があります。ただし、現実的になることが大切です。さらに、製品のところで詳しく説明した性能特徴が、市場情報として示すユーザー・ニーズにマッチしていることを強調します。ここは、あなたの製品定義の有効性と事業としての潜在性を、いかに文書にまとめるか、という部分です。興味を持った投資家や見込みライセンシーは、自らお金を払い、専門家を雇って、あなたの主張が正しいかどうか見極めようとします。それに、あなたがライセンスするつもりであれば、この評価が、交渉のツールとなるでしょう。このセクションを完璧に書かなかったり、数字に確信がなかったりすれば、大きな損失につながる恐れがあります。最後に、もしあなたが、どの事業化戦略を選ぶべきか迷っているなら、上記の作業を完了することにより、その答えが出るかもしれません。

ベンチャーのプランニング

 あなたが自ら発明し、そして/あるいは販売したいなら、それに応じた事業計画書が必要です(ただし、永久に家族経営でいいというなら、この限りではありません。)効果的な、綿密に練り上げられた事業化計画書は、強固な経営基盤となり得るのです。しかし、事業計画書の作成にあたっては、情報と表現方法を洗練させていくという点で、大変なステップを踏み出さなければなりません。よって、ベンチャーするなら、先に説明した基本プランに、数セクションを追加し、専門家に見てもらい、さらに練り上げるといいでしょう。追加のセクションは次のようなものになります。

マーケティング戦略

オペレーション計画

管理計画

・財務情報およびリスク分析

新規ベンチャーにおける経営陣の機能

 いかなる計画書も、経営管理セクションは特別に注目するに値します。ライセンスするのであれば、それほど影響はないでしょうが、ただし、単純な技術で、契約書にサインした後あなたは何も貢献しなくていい、という場合です。ライセンスに向けて製品開発をサポートするために、事業を興したり、外部から資金調達をしたりする場合は、経営陣の力量しだいで、見込み投資家のあなたに対する評価も左右されます。あなたがライセンシングで描くヴィジョンとして、ノウハウや後のテクニカル・サポートという形で貢献を続けることを望むなら、見込みライセンシーは、やはり、あなたの経営陣とチームに大きな関心をもつでしょう。技術革新プロセス一覧表を思い出してください。技術革新段階から起業段階に進み、実動模型から製作試作品へとステップアップするにつれ、必要になる様々な仕事とスキルが膨大なものになっていきます。この事実を考えても、チームを編成し、責任を委任し、体系的経営陣の構築を行う必要性があることに、納得できるはずです。

 新規事業が成功し、パートナーシップが効果的に機能するために、経営陣は重要な要因です。前にも述べたように、新規ベンチャーの分野では、製品は二流でも経営陣が一流のほうが、一流の製品を二流の経営陣が取り仕切るよりも、遥かに優位に立つ、というのが、自明の理です。無論、最大の効果を発揮するのは、一流の経営陣が、一流の技術を製品化することなのですが。

 イノベーターやアントレプレナーに出来る、最も重要なことは、自分が遂行することでうまく行く仕事と、他に委任すべき仕事を区別することです。そして、どのような経営陣を補充する必要があるかを決定し、そのための人材を探すことです。

 経営に関する点に加え、あなたの技術についてもっと説明する必要があるでしょう。機密情報も含めてです。また当該技術について、出版された論文や、満足した顧客(すなわち、見込みユーザー)からの推?状なども含めたいでしょう。これらは、付属資料として添付するとよいでしょう。完全な計画書は、事業化計画書にせよ事業計画書にせよ、20〜40ページのものとなります。

第2部のまとめ

 プランニングには、技術開発、市場評価、およびマーケティング戦略への、バランスのとれた系統的なアプローチの基盤となる継続的な情報収集と共に、適切な経営構造の構築が必要です。技術革新プロセスは、このようなプランニングを行うための枠組みとなるだけでなく、プランニングの第1歩を踏み出すこと、すなわち、あなたが今どの地点に立っているかを正確に見極めることを手助けするものです。

結論

 本書が、プランニングのためには多くの仕事があり、今すぐに着手するべきだということを読者の皆様にわかっていただけたのなら、このガイドの目的を達成することに成功したと言えます。あなたが見事にやり遂げた仕事は、必ずや報われるでしょう。うめき声を上げながら、系統的事業化計画と闘った多くの発明家が、生き残り、「あれは、今までの私の人生のなかでも最高の仕事でした。」と述懐しています。

計画書があれば、あなたは、技術革新プロセスを支配することができます。

計画書がなければ、間違い無く、プロセスがあなたを支配します